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薄い封筒を持って出てきた犬飼に、部屋をジロジロ見ていた後ろめたさで内心どきりとしながら背筋を伸ばした。
「あっ、いえ、ここで最後なんで大丈夫っす」
「そうなのかい? じゃあお疲れ様」
ふいにぽん、と頭を撫でられた。
「……は」
「ん?」
一瞬で頭が真っ白になってしまったが、対する犬飼は不思議そうに固まった俺を見つめている。彼にとっては普通のスキンシップなのだろうか。普段撫でられることなんかないから、つい呆気に取られてしまった。
「何か書き忘れていたかな」
「い、いえ、……あ、でもこれならもっと安い発送方法ありますけど」
「そうなのかい? じゃあそっちに変えてもらおうかな」
「わかりました。それじゃあえっと……」
腰につけていたポーチから新しい記入用紙やメジャーを取り出して、一通り書き直すと彼は笑った。
「ふふ、君は頼りになるね」
「そ、そんなこと、ないっす……犬飼さんの方が全然……頼りになりそうっていうか」
普段そんなことを言われないから一気に耳まで熱くなる。それも密かに憧れている人に言われたら尚更だ。
視線を泳がせていると犬飼は首を傾げて笑った。
「俺は頼りにならないよ。全然ならない。君の彼女は幸せだろうね」
その言葉にどこか自嘲が混じっているようで、今度は俺が首を傾げる。
「そう、すか? 犬飼さんって男らしくて、男の俺から見てもカッコイイなーって思うんすけど。俺はもうフラれっぱなしだから頼りにはなってないかな。あは」
(って俺は何をベラベラと……)
最後の方はほとんど勝手に口から出てしまった。たまに来るだけのドライバーの恋愛事情なんか誰も興味ないだろう。そう気づくと急に恥ずかしくなる。
誤魔化すように笑って、筆記用具などをポーチに詰め込む。一秒でも早くこの場から消えてしまいたかった。
「そうか……うん。あんまり無理はよくないよ。それじゃあね、長崎くん」
最後にとても柔らかな笑顔を見せて、彼は手を振った。
春特有の、暗くなると肌寒さをつれてくる夕暮れ。犬飼家のドアに俺の影が出来る。
遠くで犬の鳴き声が聞こえてハッとした。
(はじめて名前呼ばれた)
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