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 ここまで努力してきたつもりだったけれど、一か月ほぼ毎日一緒に過ごした犬飼にすら俺は「女の子っぽい見た目」だけが取り柄のような存在だった。その事実に気づいた時、今までの努力がどれだけ無駄だったのだと思い知ったのだ。 「別に無理にとは言わないけどさ」  西沢は何も言わなかったけれど、察しているのか犬飼の話を聞いたりしなくなった。俺は内心そのことに感謝している。  あの日に起こったこと、感じたこと。それまで抱えていた何か。その全部を俺は考えたくなかったのだ。 「あ、カナタ。ちょっと来い」  書類が書き終わり帰り支度をしていると、井上がキョロキョロしながら事務所に入ってきた。  急を要する配達依頼でもあったのだろうか。面倒な雰囲気を察して、存在を消そうと小さくなってみたけれど、あっさりと声がかかった。 「俺の担当地区っすか?」 「いや、表の受付の方に行ってくれよ」 「受付?」  持ち込み用の受付は事務員が兼任しているので、俺は普段行くことがない。しかし井上はそれ以上言わないで、さっさと出て行ってしまったので、俺はとりあえず受付に向かうことにした。 「……あ」  掘っ建て小屋みたいな小さな受付に、背を向けて男が立っていた。  三か月経っているけれど、見間違うはずがない。その姿は後ろを向いてたって目を引く。 「犬飼さん」 「ああ、やあ」  振り返った犬飼は、俺を見ると見慣れた柔らかい笑顔を浮かべた。少し痩せたように見える。俺はそれを見ただけでなんだか泣きそうになって、思わず唇を噛んで胸を掴んだ。 「……えっと、」  最後に見たのは、暗がりで苦しそうに俺を見つめる姿だ。俺のしたことを考えれば、まともに顔を合わせられるわけがない。  早く要件を済ませてもらうしかない。彼は片手に小包を持っていた。 「発送ですか」
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