4、

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   *** 「あ? 長崎もう上がり? おつかれー。今の時期は楽でいいよなあ。これから飯行かね?」  西沢は肩を回しながら近くの椅子に腰を下ろす。俺は書き途中だった書類に目を落とした。 「……悪い。これ時間かかりそうだからさ」 「ふうん。……なあ、もーそろそろ遊び行かね? 繁忙期来る前にさ」 「ああ……」  西沢の誘いに曖昧な返事をしていると、彼は声を潜めた。 「なあ、まだ引きこもってんのか? もう三ヶ月だろ」  何から、と聞かなくてもすぐに分かった。  犬飼とレイプまがいのセックスをして、翌日家を飛び出してからだ。 ――『帰ります。お世話になりました』  まだ犬飼が眠っている早朝にそう置手紙をして、俺は静かに部屋を出た。  だって契約書があるわけじゃない。口約束だし、その約束通り、小説を描き終わる期限は終わっていた。俺が聞かなくて、犬飼が言い出さなかったから居続けていただけで、本当はいつでも俺が辞めたいといえば来なくてよくなっていたんだろう。 (そうだ。俺の意思で居続けた)  結局弁償するといっていた荷物の請求書はなんだかんだ作ってくれなかった。けれど、自分が商売の題材にされていたなら、それでイーブンでいいだろうと勝手に思っている。  朝、目覚めたらすべてがどうでもよくなってしまったのだ。  犬飼家で過ごした一か月のことを全部放り出して、全部なかったことにしてしまいたかった。一時は仕事も借りてる部屋も全部捨てて、どこかに旅立ってしまおうかとすら考えたけれど、それよりも一人だけの空間で丸まって眠りたかった。  せめてもの抵抗として、配達担当の地域を美和と代わってもらった。だからあの日以降犬飼には会っていない。 (俺は結局、どこに行ってもどう頑張っても、あんな風にはなれないんだな)  憧れた男像なんかどうでもいいと初めて思った。  あれからジムにも行かなくなり、翌月には解約してしまった。井上から誘われる飲み会も、変にプライドなんか持たなければ酒が好きじゃないからと断るのは簡単だった。
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