第0話/蕪無 薫「始まりで躍れ」

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 コンビニの駐車場の隅っこで、掌に絆創膏を貼る。ゴミはちゃんとゴミ箱へ。  ちゃんとしてるんだ。僕は。  たまに、客の出入りで自動ドアが開閉する。その度に、流行りのモンスターロックバンドの新曲が聴こえてくる。  今はどこのお店に行ってもこの曲が流れてるよね。映画の主題歌にもなってたし。  BGMにするにはいい感じの曲だよ。うん。  ああ、水がおいしい。ただの水なのに。  なんの味付けもされてない水なのに、飲んでておいしい。  幸せ。              ●  夕日が沈んでいく。あばよ、太陽。  グッナイ。  ずっと沈んでろ。……そしたら世界は闇に包まれちゃうか。  世界の終わりみたいな光景になるね。闇の世界だよ。  ああ、いいなぁ。そうだったら、いいのに。  そうだ。この世界がモンスターが出てくる世界だったらいいのにな。  で、僕がモンスターを倒せる力を持ってたら最高。将来の事なんか悩む事なく、モンスターとだけ戦っていればいいんだ。  したら、皆、誉めてくれるだろうし。なんで、この世界はそうじゃないんだ。  僕は生まれてくる世界を間違えちゃったのかな。  異世界に転生したい。転移でもいいけど。  死ぬのは嫌だけど。嫌で嫌でしかたがないけれど。  なんて、無為な事を考えてると、その人は現れた。10メートルくらいの橋の真ん中で。  ど真ん中に、その人は立っていた。
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