第0話/蕪無 薫「始まりで躍れ」

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「観神楽坂…………先輩」  僕の口が、彼女の名前を呼んだ。  観神楽坂(ミカグラザカ) 黄泉路(ヨミジ)。  それが、彼女の名前だ。ただし、この先輩は『ヨミジ』と呼ぶことを嫌う。  呼ぶとしたら、名字でとか。そんな感じ。  まぁ、あんまり女の子っぽくない名前だもんね。ギリギリ『もみじ』っぽいのが救いかな。 「君、か」  彼女は、僕の声から僕の存在を認識していた。だけど、彼女は僕を見ていない。  橋の手摺に片手を置いて、沈み行く夕日を見ていた。いや、その横顔は、太陽を睨んでいるのかも。 「どうしたんですか。こんな所で」  膝くらいまでのばした黒髪が、オレンジ色の光を反射していた。身長は175センチと高い。  高い……高い……160センチの僕よりも。髪の長さも足の長さも、僕よりも長い。  切れ長で垂れ目な目に、左目の下に泣き黒子(ぼくろ)。  観神楽坂 黄泉路という女性は────まあ、僕の先輩だ。頼りになる先輩です。  武力────という面では。僕にとっては、この先輩は武力の化身といったところだ。  細身のその身体からは、想像もつかない虜力を生み出すのだ。この人は。  要するに、とんでもなく喧嘩が強い。美人なのに。  バカなんじゃないだろうか。神様ってのは。  自衛隊の父親を持っているらしく、お邪魔した自宅にはジムみたいな設備が揃ってた。あの、設定ミスみたいな怪力は、そうやって生まれたみたいだね。  観神楽坂 黄泉路。彼女こそ僕の通う近衛(このえ)中学の生徒会長様である。  我が校で一番、喧嘩が強いのが生徒会長っていう。
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