第0話/蕪無 薫「始まりで躍れ」

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「川を見ていた」  ええ、そうでしょうよ。喧嘩売ってんのか、この先輩は。  勝てるわけねえだろうが。16ポンドのボウリングの玉を両手に装備して、暴走族を潰し回ってる様な女だぞ。  マイボールが競技用じゃなくて、戦闘用だからね。オサレ武器にも程がある。  僕の質問に答えた先輩がやっとこちらに顔を向けました。戦闘系女子でなければなぁ。  綺麗な顔してるんだよ。この人。  本当に。終戦に持ち込みそうな最終兵器みたいな戦闘力だけど。  観神楽坂先輩は、その美貌から交際をよく申し込まれている。この前は、英語の里村先生に求婚されてた。  里村先生、新婚さんだった筈なんだけど。一個の家庭がとんでもない事になった。  …………奥さんが授業中に出刃包丁を振り回しながら、教室に乗り込んできたのは、まだ記憶に新しい。僕も野次馬に混じって見ていたけど、襲われていた先輩が涼しい顔して襲撃者の奥さんを取り押さえていたなー。  年下の可愛らしい奥さんって話だったけど、目が血走ってたよ。聞いてた話と違う。  ジャパニーズホラーって、ああいうのを云うんだよね。あんな声を人間が出してたなんて。  あんな……身の毛のよだつ様なおぞましい雄叫びを、あんな可愛らしい感じの人が。  なんて。  人の感情って、あんなにも人を狂わせてしまうんだなって。感情……か。  感情ねえ。  厄介なこった。  人は皆、感情と欲望の奴隷。だから、そのせいで狂う。  狂って、壊れて。戻れなくなる。  里村先生は、狂って。奥さんを壊した。  誰が悪かったんだろうね。  誰かが云った。  悪いのは先輩だろうって。  …………………………………………。  ………………………………本当に?
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