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観神楽坂先輩の前まで移動すると、彼女が何を見ていたのか、下を覗き込んで確認してみる。まさか、本当に川を見ていたわけではあるまい。
ひょいって感じで橋の下に視線を走らせてみると、ダンボール箱が、川底に垂直に突き刺さっていた自転車に引っ掛かっていた。っつーか、あれさ、先輩のじゃんすか。
先輩の母君の愛車を、先輩が継いだママチャリでござるな。そこそこ綺麗な川に、なんて物をブチ込みやがるんだ。
この先輩は。
むしゃくしゃしていらしたのかしら。
あらやだ、怖いわ。
この、バイオレンスビューティーが。
「おや」
ってな感じで、僕はダンボール箱の中で動いている存在に気付いた。
子猫、だ。ベイビーキャットじゃ。
にゃこじゃー。にゃこちゃんじゃあ。
ういのう。ういうい。
「…………え、どうしましょう」
たぶん、観神楽坂先輩は、川流れをしている黒猫を助けようとして自転車を川にとりあえず放り込んだのだろう。
普通やらないけどねっ! もっと他にやり方が幾らでもあるけどね!!
自転車アタックがにゃこに命中してたら、どうしてくれんだ。もうね、先輩のこういうところが本当、脳筋。
脊髄反射で不法投棄みたいな事をすんなよ。不法投棄っつーか、不法投機。
一流のドメスティックビューティーともなると、強肩だぜ。
気性は狂犬のくせにな!
この人、突発性のアクシデントに弱かったりするからなぁ。とにかく、下でか細ーい鳴き声で助けを求めてるっぽいにゃーこを、早いところなんとかしてあげなきゃ。
「時に蕪無君よ」
先輩が、僕の名前を呼ぶ。ちょー嫌ーな予感がするぜ。
ヤバイ予感だぜ。
「君は、泳ぎは得意だったかな」
ほらね。
僕は、得意気に云ってやるわけですよ。先輩に。
「観神楽坂先輩、水の中にハンマーを落としたら、どうなると思いますか?」
「沈むだろうな。それが、なぞなぞの類いでなければ」
「そういう事です」
分かってるじゃない。もちろん今のは、なぞなぞなんかじゃないよ。
僕が川に飛び込んでも、流されていくだけだね。アトラクションとしては、楽しいかもしれないけどさ。
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