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と云うかだよ。なんで自分で助けようとしないで、後輩を川に放り込もうとしてやがるんですかねえ。
おう、こら。その手を離せや。
アルゼンチンバックブリーカーを食らってる人みたいになった僕は、いつもよりずいぶんと高くなった世界から生還する。
「ぐべっ」
こ、こいつ……手摺の上に落としやがったぞ。なんて女だ。
そのまま、橋の下に落ちたらどうしてくれる。泳げねえっつってんだろ。
肋骨が軋んでるのよ。痛いのよ。
苦しいの。
「そうか、だったら泳げない君を派遣しても、意味はないな。この役立たずめ」
「言葉に温もりがない!」
観神楽坂先輩の言葉の周囲では、分子運動が停止しているのかも知れない。
人として、ちょっとアレなんだよなぁ。やべーやつ。
「観神楽坂先輩も泳げないのですか?」
「いや、私は泳げないわけじゃない。水の中に入ると、な」
先輩はそう云って、指先で前髪を弾いた。ああ、そう。
そーね。そうよね。
実際、この川の深さは自転車が刺さるくらいだ。そこまで深いって事もないだろうね。
だから、僕も根性を振り絞れば、子猫を助けるくらいなんとかなるやもしれぬな。
ワンチャンですよ。わんわん。
観神楽坂先輩は、体育の授業は見学している。それは、彼女なりの事情があっての事だ。
本人がやりたがらないからって、それが我が儘って事にはならない。そこには、理由があるんだ。
痛々しい程の。僕なんかでは、到底、肩代わりできない理由………………傷だ。
僕に出来る肩代わりと云えば、せいぜい子猫の救出くらいだろうね。
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