第0話/蕪無 薫「始まりで躍れ」

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 と云うかだよ。なんで自分で助けようとしないで、後輩を川に放り込もうとしてやがるんですかねえ。  おう、こら。その手を離せや。  アルゼンチンバックブリーカーを食らってる人みたいになった僕は、いつもよりずいぶんと高くなった世界から生還する。 「ぐべっ」  こ、こいつ……手摺の上に落としやがったぞ。なんて女だ。  そのまま、橋の下に落ちたらどうしてくれる。泳げねえっつってんだろ。  肋骨が軋んでるのよ。痛いのよ。  苦しいの。 「そうか、だったら泳げない君を派遣しても、意味はないな。この役立たずめ」 「言葉に温もりがない!」  観神楽坂先輩の言葉の周囲では、分子運動が停止しているのかも知れない。  人として、ちょっとアレなんだよなぁ。やべーやつ。 「観神楽坂先輩も泳げないのですか?」 「いや、私は泳げないわけじゃない。水の中に入ると、な」  先輩はそう云って、指先で前髪を弾いた。ああ、そう。  そーね。そうよね。  実際、この川の深さは自転車が刺さるくらいだ。そこまで深いって事もないだろうね。  だから、僕も根性を振り絞れば、子猫を助けるくらいなんとかなるやもしれぬな。  ワンチャンですよ。わんわん。  観神楽坂先輩は、体育の授業は見学している。それは、彼女なりの事情があっての事だ。  本人がやりたがらないからって、それが我が儘って事にはならない。そこには、理由があるんだ。  痛々しい程の。僕なんかでは、到底、肩代わりできない理由………………傷だ。  僕に出来る肩代わりと云えば、せいぜい子猫の救出くらいだろうね。
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