第0話/蕪無 薫「始まりで躍れ」

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「なんでしょうか、故宿(コヤド) 諭狩(ユカリ)先生」  フルネームで呼んでみたら睨まれた。ちゃんと『先生』って付けたのに。  中学生英語で云ってやればよかったのかしら。…………余計にぶん殴られそうだ。  女性の扱いは、中学生男子には難しい。女の子を追いかけ回すくらいなら、僕は蝶々でも追い掛けていた方が気が楽だね。  …………まぁ、今回のお説教は、僕が体育の授業中にフェードアウトしたのが原因なんだけどね。校外マラソンの途中で、蝶々を追い掛けたのがまずかった。  先生に呼び出されて、「ちょーちょが! だってちょーちょが!」って必死に訴えてみたものの、勢いで押し切れなかったよ。僕にとっては、走ってるより蝶々を追い掛けていた方が有意義だったんだけどな。  だって、目の前を蝶々がひらひら~っと横切ったんだよ?  ……追い掛けるじゃん?  蝶々だよ!?  追い掛けるっしょ。そこは。  だから、ある意味、僕がマラソン中に行方不明になったのは、不可抗力なんじゃないかなって。仕方ないよね。  不可抗力なら。回避不可能なところがあるし。  ただ、それがこの目の前の体育教師には許せなかったらしい。まぁ…………そりゃそうだよな。  冷静に、客観的に物事を考えてみよう。悪いのはどっちだ?  そう、考えるまでもないよね。悪いのはこの世界だ 。 「…………」  ああ! 心なしか、僕を睨み付ける先生の威圧感が増大した!?  おかしいな。僕が考えてる事でも分かったのかな。  だとしたら、やばい。なんかもう、目が。  親の仇でも見てるみたいなやつだよ。  不倶戴天の瞳。
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