第0話/蕪無 薫「始まりで躍れ」

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 手が痛い。転んだ勢いで、体勢を中腰までリカバリーしたから、うまく誤魔化せたと思うんだけど。  とりあえず、何よりも一番痛いのは周りからの視線だよね。色んな人からの視線が突き刺さってマジ、アイアンメイデン。  僕が武蔵坊弁慶だったら、立ったまま召されてるレベル。「こ、こいつ……立ったまま!」みたいな。  うっわ、地っ味ーにじわじわ痛い。気にはなるけど、我慢出来るレベル。  洗いたいな。傷口を。  洗うとき痛いだろうけど。でも、傷口に砂利が刺さってるのが、ぞわぞわする。 「…………」  暑いしね。や、決して暑さに負けたわけじゃないよ。  全然、余裕だし。でも、怪我しちゃったからさ。  傷口を洗った方がいいよね。この傷が原因で、死ぬかも知れないから。  ほら、この先にコンビニがあるし。寄り道じゃないからね。  これは、寄り道なんかじゃない。僕は、決して太陽に負けたわけじゃないんだ。              ●  はああーぁぁ、すっずしーい。何ここ、天国じゃん。  楽園じゃん。クーラーの風がアロマみたいに気持ちいい。  癒されるー。もう、外になんか出たくないね。  幸せってこういう事だよ。うん。  手も綺麗になったし、絆創膏と…………後は水も買っていこう。絆創膏だけじゃなんかお店に悪いしね。  絆創膏を貼るのはお店の外でやるにしても、念入りに傷口は洗った方がいいだろうし。うん 。  550ミリリットルはさすがに多すぎるから、余った分は飲むしかない。もったいないから。  決して、暑さに屈したわけじゃないよ。わざわざ、家に水なんか持って帰ってもしょうがないからね。  ほら、コンビニの駐車場にはゴミ箱だってあるわけなんだし、活用しなきゃでしょ。
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