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 それでも僕はここの一員であることが僕の身分証明だとは思えないし、諦めきれず後生大事にポケットにしまってある思いを、ガムの包み紙と同じようにぽい、と捨てることができないままでいた。  雑居ビルの重いガラス扉を開けて新宿駅へ向かう。遅い日没をそろそろ受け入れる街はまだほの明るい。僕は細波に転覆しそうな気分を持て余し、倒れないように楔を打ち込むみたいに、カナルのイヤホンを耳に突っ込んだ。  歩道の模様。  色とぼやけた輪郭でできたおばけみたいな人の群れ。  視力0.0七、裸眼の僕の世界が音を際立たせる……。  音楽は流れ、何度聴いても新しいそれは穏やかなくせにいつも人の心臓をえぐっていく。  ……理屈じゃない。  いくらアナライズしてみせても、行間をさぐり作者の胸の内を暴いた気になっても、誰かが示した正解を頼りにしても、がつんと心臓に喰らう一撃の正体は判りゃしない。軌道すらみえないパンチが飛んできて、一体何がこんなにも揺さぶってくるのやら、なされるがまま、打ちのめされる。歌が鳴る。声がよくて、鋭い言葉が美しいメロディに乗る。感受性が鋭い筈だなんて脆弱な自信を奮い立たせて、いろいろとフル回転で歌にしがみつく。     
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