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27話 高槻洋菓堂・服部宝珠庵業務提携!
■高槻洋菓堂・服部宝珠庵業務提携!
放課後、いつもの愉快な4人組、香枚井登下校組。紅電の下り急行電車に乗って、香枚井を目指していた。話題は、自営業の今後について、パティシエール・高槻洋菓堂、服部宝珠庵、たちばなデンキの主に3人での話になっていた。
「ねえねえ、うちのお母さんがね、はっとりのお母さんと一緒になって、業務提携をしましょう、って話になってるよ? 知ってる?」
「あん? 何か、お母さんが世間話していたあれかー。いいことじゃない?」
「そうだね、沙織ちゃん家の業務用ジュースサーバー、月崎冷機のジュースサーバーだし、三つ巴の協力体制だね」
「ねえねえ、わたしも手伝えないかしら?」
「そうだな、桃花。街のお菓子屋さんや電器屋さんは、頑張っているぞ、商店街で、というお話をしてくれと、ラジオ局のお父さんに伝えてね。よろしくね」
「イエッサー! 美月ちゃんの頼みとあれば! お父さんに伝えとくー」
「で、梨音、これはお説教じゃないんだが、うちも、グリーンティーとか、冷やしあめとか、緑茶とかの、そうだなあ、3種類ぐらい、表に透明にアクリル樹脂か何かでむき出しになっている、冷やせるジュースサーバーが欲しくてね、梨音、お安くしておくれよ!」
「がってんだ! って美月、それって、誰のお願い?」
「うちのお父さん」
「ははっ、美月ってそればっかりだなあ。うちのお父さん。随分仲いいんだな」
「違う!仕事の話はするよ。お父さんが、小振りの業務用ジュースサーバーを探してた」
「ふーむ。じゃあ、うちも親父に訊いてみようかな? 実際に、クルマで、服部宝珠庵まで。今日行こうか? 見積もりも出すよ!」
「お願いだ梨音、助けてくれ」
「よーし、美月さんの頼みとあれば、一肌脱ぐぜ!」
「いや、電車の中で脱ぐなよ、セーラー服。ち、乳首だけは見せんな。インナー脱ぐなよ!ヤバい格好すんなよ!」
「美月ぃ、いくらあたしでも、実際、そんなことはしないよー」
一同「ははははは!はーあ」
電車の車掌さんが、岩崎駅を出発してから「次は紅電室山、紅電室山です」とアナウンスし始めた。鉄橋を渡る音がし始めた。ロングシートに座っている4人組。静寂を破ったのは、沙織だった。
「ねえねえ、みんな、先日の純喫茶、ジュリアンってあったでしょう、四方堂の」
「あったあった」
「食った食った」
「食べた、でしょ、梨音ちゃん!」
「そこでね、うちの洋菓子扱ってくれることになったのよ!」
「マジか!」
「ねえねえ、沙織、服部宝珠庵の香枚井餅も置けないか?」
「うーん、それも話したみたいなんだけど、うちの親が。じゃあ、いちご大福ぐらいだったらいいわよ、みたいな話になってね」
「ほほう、ありがとう、沙織のお母さん!」
「はっとり、何でうちのお母さんだって分かったの?」
「だって、あんたとこのお父さんが、敷女OGの会話に入れると思う?」
「確かに」
『香枚井ー紅電香枚井でーすお降りの方は、ドアとホームの隙間に挟まれませんようご注意ください間もなく、急行、楠葉行きが発車します、閉まるドアにご注意ください』
ぽつぽつと歩く、香枚井登下校組。
「あ、霜田さん!」
「やあ、沙織ちゃん! みんな! 久しぶり! 元気だったか?」
一同「はーい」
「そうか、それは良かった」
「なるほど、室山放送が、紅電グループと、紅電バスを巻き込めば……ぶつぶつ」
「桃花、なにぶつぶつ言ってるの?」
「いや、なんでもないよ梨音ちゃん。独り言」
霜田拓也「?」
霜田拓也を適当にやり過ごした後は、もちろん、室山三四系統のバスに乗車する一同だった。だが、今日の沙織は、様子が違っていた。香枚井1丁目になっても、バスを降りないのだ。美月が心配して声をかけた。
「おい、沙織、忘れたのか?香枚井1丁目、過ぎたよ?家に帰るんじゃないのか?」
「いや、今日は、うちのお母さんの代わりに、はっとりのお母さんに用があるから、終点まで乗る。そして、中間テストの自習をはっとりん家でやる」
「あ、そういや、そうだった」
「で、どんなおはなしするの、沙織ちゃん?」
「桃花ちゃん、実はね、うちのティールーム、イートインスペースに改装するの」
「マジでー! ほんとに! ステキね、そのアイデア!」
「紅茶でアフタヌーンティーが出来るようになるの!」
「すごいー、わたし、行ってみたい」
美月・梨音「おおー、すげええ!」
「うちの庵も、イートインスペースに改造出来るか、お母さんに訊いてみる」
「そうだね、はっとりん家も、そうなると大繁盛だね!」
「うん、うん。メモ、メモっと。じゃあ、わたし春名台団地で降りるね!」
沙織・美月・梨音「バイバーイ、また明日ね!」
美月「桃花ー、なーにメモしてたんだー?」
「えー、秘密ー。じゃねー」
バスの扉が閉まった。春名坂小学校前で降りない梨音に、残り二人の耳目が集まった。
「梨音、なんでついてくるんだ?」
「えー、なんででしょうねー、強いて言えば、親父の手伝い」
「なにそれ」
「なんじゃそりゃ」
「へへーん、後は秘密だよーん」
「今日の桃花と言い、今日の梨音と言い、何か胡散臭い」
「おい、美月ぃ、そりゃあんまりだぜ。わたしゃ、商談の手伝いだよ」
「あー、なるほどね、了解しました」
「道理で梨音まで終点を目指すかと思った」
「まあね、二人に付き合って、勉強もするけどね!」
「やめろ梨音! 地震雷火事親父が起きる! やめとけ! 天変地異が起きる!」
「おいおい、美月ぃ、理系なら負けてないんだぜ、点数的に」
『ご乗車お疲れさまでした。間もなく、終点、紅電榛名天神駅前、紅電榛名天神駅前です。どなた様も、お忘れもの無きようにお仕度ください。このバスは、後ろ乗り前降りとなっております。ICカードをタッチしてください。ご乗車お疲れさまでした。』
「梨音ちゃん、行こう!はっとりん家!」
「イエッサー!」
「はははは、二人とも元気でいいなあ……お父さん!」
「あ、店の前に親父がいる!美月ぃ、早速セッティングしているぞ!」
「本当だ……梨音、ありがとう!」
「お、お礼だなんて、きき、気持ち悪いなあ、美月ぃ」
「ただいまー」
美月の父「おお、お帰り、美月とその友達!」
沙織・梨音「お邪魔しまーす」
美月の父「ドリンクバー、出来たぞ。うちの庵にもだ。2台、立花さん家から購入した。清水の舞台から飛び降りた!」
「お父さん、随分思い切ったわねえ……」
美月の父「グリーンティー、冷えてるぞ!さあ、3人とも飲め!」
沙織「いただいて、いいんですか?」
梨音「いいんだよ、沙織ちゃん!ドリンクサーバーの飲み始めだからね、テストだよ、テスト。ねー、親父!」
梨音の父は、脚立に乗って、まだ天井の配線と格闘していたようだったが、娘に相槌を打った。
美月の母「さあさあ皆さん、いらっしゃい。どうぞ遠慮なく召し上がれ!」
沙織・美月・梨音「いただきまーす」
3人は、ごきゅごきゅと喉を鳴らした。
「美月ぃ、これ、電源入れたら、15分で冷え冷えになるんだぜ!」
「すごいな、梨音ん家……なんでもあるなあ」
「そりゃそうでしょ、なんせ、たちばなデンキだもんね」
「威張るな、梨音!」
「美味しい……ごちそうさまでした」
美月・梨音「ごちそうさまでした」
美月の母「はいはい、皆さん、お味はどうでしたか?」
梨音「冷え冷えで、美味しかったです」
沙織「私も、です」
美月「お母さん、メッセージ送ったの、昼休みでしょ?いつ来られたの?たちばなデンキさん」
美月の母「そうねえ、午後3時過ぎから始められたわねえ。亭主と二人で何か相談した後で。庵に行ってみなさい、美月。すごいことになってるわよ。皆さんもおいでなさい」
沙織・美月・梨音「はーい」
庵に招かれた、沙織・美月・梨音の3名。一応に「おおーっ」という感嘆を漏らした。次いで、美月が母親に声をかける。
「お母さん、畳がないんだけど……」
「あらあら、解体工事屋さんと、塗装工事屋さんが来て、あっという間に土間にしたわよ。靴のまま上がれるようにって!」
「そして、なぜか梨音んちのジュースサーバーと、あったかい抹茶サーバーが……いつの間に……」
「これも、梨音ちゃんのお父さんのお仕事ね」
「お仕事早い……」
「仕事が早いのが、たちばなデンキの良いところ!」
「威張るな、梨音!」
「それにしても、全然雰囲気違うじゃない?なあに、梨音ちゃん、いつの間に連絡とったの?」
「あーね。昼休みに、美月と沙織ちゃんがその話してたから、親父にメッセージ送っといた」
「こちらも、仕事が早い……」
「まったくだ」
「テーブルと椅子が置いてある……」
「お母さん、だれのアイデア?」
「ふふふ、わたし」
「はーあ、この親も……わたしの庵が……」
美月の母「この親、って何よ美月」
「でも、良かったじゃない、はっとり。お茶出来るじゃない、靴脱がなくても」
「そりゃそうだけど……じゃあ、香枚井餅でお茶でもするか!」
二人「賛成ー!」
羽二重餅の訳アリ品が、茶色の塗りのお鉢に入れられて出された。
美月の母「お茶はね、ここからドリップできるの!」
「はっとりのお母さん、すごーい!」
「抹茶をドリップする時代になったか遂に……」
「はいはい、美月、嘆かない嘆かない。これも時代なのだ!」
「時代、って、何だよ梨音」
みんな、気を取り直したらしく、順番に並んで、お抹茶を、ドリップサーバーから器によそうのだった。ホカホカと、湯気が立っている。
「本当に、香りがいいですね、はっとりのお母さん」
「そうねえ、機械が点てたお茶だとは思えませんわ」
「お母さん、なんだか、時代だね」
「あら美月、どうして?」
「茶筅で点てない抹茶なんて……」
「これも時代の流れなのよ、ささ、どいてあげて、梨音ちゃんが注げないわ」
「あ、ごめんごめん、梨音!」
「いえいえ、まいどありー」
一斉に着席し、序でに、作業が終わった美月のお父さんと、梨音のお父さんも、隅っこの席に座って抹茶と羽二重餅をいただくのでした。
「服部さん、どうですか、うちの工事!」
「いやあ、大したものですなあ」
二人「がーっはっはっはっは!!」
それを見ていた、はっとりのお母さんチームの席では……淡々とお茶とお餅をご馳走になっていたのだった。
「なに、あれ……」
「美月、しょうがないでしょう?ああいう会話が、男の人、というものよ」
「そんなもんですかねえ」
「あなたも、誰かの妻になれば理解できるわ」
「そんなもんですかねえ」
「美月ぃ、どうだい、自動抹茶ベンダーの実力!」
「ううむ、侮れないな、この味。梨音というか、たちばなデンキ、腕持ってるわー」
「えっへん!」
「威張るな、梨音」
「ねえねえはっとり、お餅もう一個いいかな?」
「一個どころか……訳アリ品なんで、このお餅。形が変だから、売り物にならないんだよ、沙織」
「うちも、パンとか、サンドウィッチとか、訳アリ品とか出したら、売れるかなあ」
「大丈夫だよ沙織ちゃん! 売れる売れる! ところで……忘れてないか? 美月のお母さんとお話って何?」
「あ、忘れてました。服部さんのお母さん?」
「あら、高槻さん、改まって何かしら?」
「実は、わたしの実家も、ティールームを、イートインスペースに改造したんです、このあいだ」
「あら、そうなの高槻さん。今頃、複数税率で計算が大変ね!」
「はい、レジスター交換代金がかかるんだって、お父さんがぼやいていました」
「ふふふ、うちの主人と一緒ねえ」
「あ、はい」
「まあまあ、そう緊張なさらずに、あなたも、敷女1年生。随分垢抜けて来たわねえ、洗練されたというか何というか」
「おばさま、わたしにお世辞仰っても、何も出ませんよ!」
「あら、可愛い、ふふふ」
そのやり取りを少し遠くの隣の席で見ていた、美月と梨音。
「おい、なんか楽しそうだぞ?」
「本当だ、なんか、雰囲気って遺伝するのかな?敷女OGと、現役敷女JKって」
「さああ、わたしも現役敷女JKだけど、全然わからない」
「わたしもだ、美月ぃ」
二人「はああ……」
そんなこんなで楽しい(?)お茶会も終わりを告げ、美月の母が、沙織の母によろしくと伝えてください、ということになり……。
「さあさあ、あなた方、美月!お勉強の時間じゃなくって?」
「あ、わたし、すっかり忘れて!ごめん、お母さん、みんなで二階に上がる」
「そうだね、美月ぃ、うちの親父たちの『ガハハハッ』聴いててもしょうがない」
「上に、上がらせてもらいましょう、梨音ちゃん!」
(続く)
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