2話 とにかく何とかする女子中学生たち

6/7
前へ
/40ページ
次へ
■そして4人は出会った!  中学三年の夏休み。室山県立敷島女子高等学校の、オープンスクール。わたし、服部美月は、お母さんと一緒に、紅電に乗って、行くことになりました。もちろん、梨音も、桃花も来ています。春名坂中学校で、敷女を目指すのは、知ってる限り、私たちぐらい。みんなは大体が学区内の高校を目指している中、わたしたち三人は、全県区の公立女子高を目指している。 ここは紅電敷島駅西口。梅香交差点近くに、例の学校がある。オープンスクール目当てに参加する女子たちが、列をなして歩いている。それはそうだ。わたしらみたいなことを考えている子がたくさんいるのだから。 「じゃあ、梨音、桃花、普通科の模擬授業に付き合って」 「えー、わたしは情報処理科に行きたいなあ」 「わたしは、普通科でいいよ」 「ならば、2対1で普通科の勝ち! さあ、行くよ!」 「しょぼーん……」 「梨音ちゃん、しっかり!」 「おばさんはね、ここのOGなの。同窓会にも行くわねえ」 ほーら、始まった、お母さんの敷女自慢……だから、女に生んでくれって頼んでない! あーあ、女子高行き決定か? すると、交差点の信号待ちで、うちのお母さんが、見知らぬ親子を呼び止めて、こう言うのだった。 「あーら、高槻さんちの奥さん! ……っていうか、久美子、お久しぶり!」 「あれ? 服部さんちの奥さん! ……っていうか、恵美、お久しぶり!」 「奇遇だわー」 「あなたの娘さんも敷女へ?」 「そうね、そのつもりで頑張って!」 「あら、何年ぶりかしらー。高槻洋菓堂は順調?」 「ええ、シエスタ香枚井に今度出店……って、服部宝珠庵のお餅は?」 「今度、道の駅香枚井に出させてもらいますの」 「この間のOG会、盛り上がったわよね」  二人「うふふふふふ」 ちょ! ちょっと、どういう関係なの? お母さん同士が、知り合い……っていうか、元同級生ー? まさかまさか。そんな話は初耳だわ。 「お母さん、この人だあれ?」 「めぐちゃんは、わたしの同級生だったのー」 「あら、服部さんちのお嬢さん? 随分利発そうね」 「こ、こんにちは……服部美月です。ど、どうも……」 「くみちゃんのお嬢さんも、元気そうでなにより」 「こ、こんにちは……高槻沙織です。よろしくね!」  軽い握手を交わしながら、わたしは道ばたで呆然とした。親同士が、和菓子と洋菓子だなんて……。しかも、マブダチって一体……。そんな中、梨音と桃花が私を引っ張って、こう言った。 「ちょ、ちょっと美月! あの子、あなたの関係者?」 「美月ちゃん、あの子誰? 知り合い?」 「知らん、わからん! どうやら、親同士が、元同級生らしい……」      ◇ ◇ ◇ あっちー、脇汗パッドを着けてくればよかったかな。それにしても、この高校生、セーラーでよく平気でいられるなー。ここは、敷島女子高校、二年生の普通科教室。もし、わたしらが入学すれば、この人たちは三年生になるのだろう。 え? 交流タイム? 先輩に何でも訊け? 訊けって、何を訊けば……えっと……スカーフの色でも訊いてみるか。 「あ、あの……私たちが入学するとして、私たちのスカーフの色は何色になるんでしょうか」 「え、えーっと、私たちがいま二年生だから、青色よね。だから、あなたがたは緑色になるわ」 「そうですか、ありがとうございます」 「いいのよ、遠慮せずに、どんどん訊いちゃって」 「いえ、そういう訳にも……ありがとうございました」 梨音は何を訊いていることやら……。 「あのー、学食はどんなレシピがオススメですかー?」 「そ、そうね、メンチカツ定食か何かが、キャベツもたっぷりでお腹一杯になるよ」 「ありがとうございます、先輩!」 「済みません、このバカがお手数をおかけしました」 「み、美月ぃ? ちょっと、引っ張らないで!」 (ば、馬鹿者、もう少し真面目な質問をしろよ!) (だってー、食生活も大事な問題だろー?) (はああ、お前ったら、何でも胃袋直結だ……頭使え、アタマ!) そういう桃花は何を訊いてるのかな? 「あのー、部活動は、楽しいですか?」 「ああ、わたしは弓道部だけどね、文化祭で盛り上がるのは、やはり家庭科部かと思うな」 「そうですか。勉強頑張ります!」 「うん、うん、その意気、その意気!」 (真面目そうな質問だな……お前も見習え!)  わたしの肘鉄が、梨音の脇腹にヒットした。 (ぐえっ……二の句が継げない……) そういやあ、さっきの高槻沙織って子、どこへ……。 「あのー、勉強、難しくないですか?」 「そうね、大学目指してる子は、今から戦々恐々かなあ」 「普段、勉強関係で、何かされていることは?」 「まあ、大学の赤本はあるんだけどね、わたしじゃ国公立は無理かなって」 「じゃ、じゃあ、頑張ってくださいね」 す、すげえ真面目な質問! やるわね、高槻沙織!      ◇ ◇ ◇ オープンスクールも終わり、帰る時間になった。印象……。案外普通の女子が集っているんだな、という感想。暑くても冬服で耐える根性。さて、アホ二名はどうなんだろう。 「おい、梨音、何か身についたか?」 「うん、学食とパン売り場と、購買の場所!」 「……ま、まあいいや。桃花は何を訊いたんだ?」 「部活と勉強のあれこれ……」 高槻のおばさんが、口を開いた。 「じゃあ、お腹も空いたことでしょうから、喫茶店でエビピラフでも、カレーでも、スイーツでも何でもいいわ。お食べなさい」 四人「はーい」 わたしは、まだ知らない。高槻沙織が、ライバルになることを。そして、マブダチになることも、何にも分からない。      ◇ ◇ ◇ 親とみんなで入った喫茶店。ありきたりな店だが、メニューは豊富そうだった。席は、母親がテーブルを占拠してしまったため、そのすぐ隣のテーブルを四人で座ることになった。「何でも頼んでいいのよ」……問題はそこじゃない。この、高槻沙織という、見かけない女子に気が散ってしまい、なんとなくみんな、かちんこちんになっていたのだ。だけど、静寂を破ったのは、梨音だった。 「それじゃ、わたしは宇治金時かな、はい、沙織ちゃん」「え、はい? わたし? そうねえ……じゃあ、ハワイアンフラッペ。あなたは?」「服部美月です。じゃあ、ミルク金時にしようかな、はい、桃花」「わたしー? ええ、どうしよう……あんみつにしようかな」「じゃあ、決まりだな」 なんとなく、埒外というか、疎外感があった高槻沙織が、徐々に馴染んで行こうと努力してゆく様が、容易に見て取れた。そんな空気はまずいと思い、わたしが、高槻沙織に声をかけた。 「沙織さんとやら。あなたも敷女受けるの?」 「美月さんで良かったのかな……うーん、本当は共学がいいんだけどね、お母さんが、敷女のOGだから、受けなさい、ってパターンかな」 「うちとおんなじだ。見ての通り、うちの母親も敷女OG。だから、それを踏襲して、というか、お婆さんも敷女OGだからね。女系一家というわけで……」 次々に、宇治金時や、ミルク金時、あんみつが届く中、沙織のハワイアンフラッペだけが、なぜだか来ない。沙織がたまらずに店員を呼び止めた。   「どうされましたか、お客様」 「あのー、わたしのフラッペだけ来ないんですが」 「ああ、あれですね、あれは、現在作り中です」 「作り中?」 「見て驚かないでくださいね」 わたしらが、食べながらくっちゃべってる間に、沙織のフラッペができあがった! 普通のかき氷じゃなかった。グラスも含むと、高さはゆうに四十センチはあっただろうか。そこに、ブルーのシロップがかけられていて、バナナ、マンゴー、りんご、みかんなどが散りばめられていた。巨大! としか言いようがなかった。 「ぐわー、なんじゃこりゃー」「軽く三人前はあるよね」「もはやかき氷ではなかったりする……」「沙織さん、手伝おうか?」「え、ええ……美月さんのお好きな部分を食べてやってください」「これ全部ひとりで食べたら、お腹急降下だねー」 一通り、フラッペをみんなで手分けして片付けると、世間話になった。 「さて沙織さん、わたしらの自己紹介、はじめるね」 「あ、はい」 「わたしが榛名天神駅前の和菓子店、服部宝珠庵の一人娘、服部美月。よろしく!」 「あ、よろしく!」 「わたしは、春名台団地に住む、ふつうのサラリーマンの娘、柏原桃花。よろしくね!」 「よろしくー」 「わたしん家は、ナサパニックのお店、春名坂小学校近くに住む、立花梨音だ!」 「よろしくー」 沙織に向かって一通り自己紹介をした後、沙織はしばらく考えていたらしくって、やがて、自分の事をしゃべり始めた。 「わたしは、香枚井中学校の、高槻沙織です。よろしくね。香枚井三丁目で、高槻洋菓堂というお店の末っ子です。服部さんたちが、春名坂中学校としたら、隣の学区になります。いま、家庭教師として、紅電の駅員さんに、休みの時に来てもらっています! 幼馴染みです」 「おおーっ」 「家庭教師と教え子というシチュエーションが、何だかやらしーですね美月さん」 「梨音、うるっさい! ……あ、どうぞどうぞ、続けてー」 「でも、駅員さんなので、勤務がまちまちで、疲れているところを来てもらうのも、気が引けたりするんです」 わたしは相づちを打った。確かに駅員は、シフト勤務で、夜勤明けの日には、ぼろぼろに疲れているだろう。そうだ、この子を、勉強会に巻き込もう! 「高槻さん、何なら、わたしらの勉強会へおいでよ!」 「うーん、榛名天神駅前かあ……行く、行きます! わたしも混ぜてください!」 「いいともさ! おいで、おいで!」 こうして、母親の友人の次女さんを、勉強会に招くことになった……。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加