1話 沙織ちゃん、敷女を目指す、かも?

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■霜田拓也のレクチャー 拓也は、泣き止んだ沙織を何とか机に向かわせて、今日の目的であるお勉強を教えにかかるのだが……。こんなメソメソさめざめ泣いている沙織の勉強が手に着くはずもなく、とりあえず、拓也の出身校の室山工業高校と、近所の香枚井高校と、沙織が絶対嫌がるはずの、敷島女子高校のホームページを見せながら、お茶とケーキをたしなみつつ、世間話をすることに決めた。 https://pref.muroyama.lg.jp/school/muroyama_th 「あ、室山工業高校のホームページ! 霜田さんの母校!」 「まあ、制服は……詰め襟と作業着だけどね、女子はブレザーだったっけ」 「え! 女子もちょびっとだけだけど、いるの? やだ、ものすごい逆ハーレム!」 「沙織ちゃん。案外、そういうロマンスのたぐいは、君が思っている以上に生まれないものなんだよ」 「え、そうなの?」 「例えば、夏の6限目のプールの授業。先輩方の整髪料で、プールの水は整髪料くさくって、なおかつ、整髪料だけでプール全体が白濁液状態。なので女子はプールサイドでジャージで見学な。そんな香ばしい汚染された水の中で、バタフライを泳いだ後の口の中たるや……思い出すだけで気持ちが悪い……」 「ひいっ! ひどい!」 「それに加えて、防具臭い剣道の授業。男の汗臭い柔道の授業。黙々と男同士でやる器械体操や新体操などなど」 「げええええっ!」 「だろう? だから、余程タフな女子でないと、つとまらない。沙織ちゃんなら三日で逃げ出すと思うよ」 「うん、なんだか納得!」 「次は、香枚井高校のホームページだな!」 https://pref.muroyama.lg.jp/school/kahirai 「普通科だねー。ここのブレザー、超可愛い! 絶対行きたい!」 「でもご覧、進路先。大学行くのには、ちょっと馬力が足りないかな。進学実績とか、進路・就職実績とか見ると、室山工業よりもひどかったりする」 「わたし、お嫁さんになるつもりなので問題ないです!」 「でもなー、大学出て、一旦世間へ出て、就職してからでも、お嫁さんは遅くないぞー。ちょっと言い過ぎかも知んないけど、急いで結婚する必要なんかないぞー。僕の実家は、タクシー業界なんだけど、進学するのに、実家にあんまり、お金がなかったから、即、就職できる工業高校を選んだんだけど」 「ふうん、そういうもんですかねー。きょうび、大学出てなきゃダメなのかー」 「ダメって訳じゃないけどね、将来、年収とか、結婚とかで、大きな差が出て来る。気をつけた方がいいよ」 「ふえー、勉強めんどくさーい!」 「まあ、勉強なら、一応理工系だし、三角関数とか、微積分まで教えられるぞ!」 「霜田さん、すごおおい!」 「ちなみに、機械製図、機械設計、旋盤加工、CAD、CAMまで知っている!」 「わたし、そんなスキルいらない。勘弁して」 https://pref.muroyama.lg.jp/school/shikishima_gh 「わかった。それを踏まえて、問題の敷島女子高校だな」 「もう、ホームページ見なくても、紫織の背中見て育ってるし、毎日がゆりんゆりんだし、カノジョ連れて帰ってくるし、百合のカノジョとうちでお泊まりだし、バレンタインなんか、同級生の女の子から大量のチョコレートもらってくるし! なんだか、女刑務所みたいでいや! 絶対いや!」 「まあまあ、怒らないで、落ち着いて。おっ! やっぱりあった! 吹奏楽部の友情応援!」 「……それって、何?」 「昭和初期から続く、室山工業と敷女の伝統だよ。敷島女子のスポーツには、室山工業の応援団が友情応援で駆け付けるし、室山工業の……野球とかサッカーかな、その試合には、敷島女子の吹奏楽部や、チアリーディング部が友情応援に駆け付ける。そんな伝統があってね、昔から」 「ふううん」 「あんまり興味なさそうだね。今日の所はこれくらいにして、オレ、そろそろ帰ろうか?」 「いや、もう少し待って……ここんとこ、もう少し詳しく知りたい……」 拓也は内心、ほくそ笑みはしなかったが、確かな手応えをつかみつつあった。沙織を、徐々にではあるが、室山県立敷島女子高等学校に誘導できつつある! と、思っていた。実は、これも、高槻親子によって仕組まれた、巧妙なワナだったのだ! 前日、沙織の母から「あなたから敷女行きを根気強く、悟られないように、沙織に説得してあげてね。ほら、私たちが言うと、沙織ったら、すぐご機嫌損ねちゃうし」などという相談を持ちかけられていたのだった。なので……。 (ごめんね沙織ちゃん! オレは君のお母さんに買収されてました。ごめん! 本当ごめん!)
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