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■ホームページ見たので、一晩眠って、よく考えます
霜田拓也は、ビターなチョコレートケーキに、無糖のアイスコーヒー。高槻沙織は、いちごのショートケーキに、ミルクティーを、それぞれ口にし始めた。随分冷めかけている。時と共に、沙織も冷静になってきたようだった。そして、沙織のパソコンに映された、室山県立敷島女子高等学校のホームページ。そこには「生徒が作った学校紹介ページ」なるリンクが添えられていて、沙織は思わずそこをポチッとしてしまった。新しい開眼の瞬間と言うべきか。
即席ホームページ作成ソフトで作られたと覚しきそれは、学校公式ページより、幾分、いや、随分とソフトなイメージだった。そこに書かれているものは、学校のリアル、を表現していると言っても過言ではなかった。まずは、敷島女子高等学校の、入学前の印象と、入学後三年生になった時の感想とが、アンケート形式で綴られていた。
●敷島女子高等学校の入学前の第一印象
1位 真面目
2位 お嬢様
3位 怖そう
4位 おとなしい
5位 おしとやか
●三年生になっての我が校の印象
1位 明るい
2位 楽しい
3位 個性的
4位 元気
5位 爽やか
「……ねえ、霜田さん、中の人は、随分楽しんでいるみたいだね」
「まあ、自然とそうなるだろうね。ほぼ男子校な室山工業なんて、僕の中学時代、ヤンキーがウロチョロして、怖そうなイメージがあったけど、実際入ってみると、楽しかったり、個性的だったりしたよ」
「ふうーん。そういうもんですかねえー。紫織を見ていると、確かに別な意味で楽しそう。バックに百合の花が書いてあるような、そんな学校だと思う」
「またまたー。沙織ちゃん、きっともっと、いろんな性格の子がいると思うよ」
続いて、ホームページには「好きなお菓子」というリンクがあり、沙織はそれに興味を抱き、ポチッとしてしまうのだった。
●敷女生が大好きなお菓子ランキング
1位 チョコレート
2位 ケーキ
3位 グミ
4位 アイス
5位 クッキー
「……霜田さん。ケーキとクッキーがランクインしてるよー。うちの主力商品じゃありませんか!」
「確かに確かに」
「じゃあ、早速、お父さんに頼んで、県立敷島女子高校に営業をかけよう!」
「待て!」
●敷女生の早弁事情
HR終了後 3%
1限目終了後 3%
2限目終了後 27%
3限目終了後 28%
お昼にちゃんと食べる 39%
「これ見てー。ケッサク! お昼が待てない子がこんなに! ぷっ! くくく! はー、可笑しい。わたし、紅茶吹きそうになった」
「何だかんだ言って盛り上がってんじゃねえかよ!」
「えっと、次は……」
●赴任してきた先生から見た、敷島女子高等学校の印象
・敷地に入った途端、落ち着いた雰囲気が流れている
・制服を着崩さない
・礼儀正しい
・まるでお花畑のようなところ
・高山植物の群生地帯
・女子だけしかいないことのデメリットさを感じないところ
「やっぱ紫織は、ゆりんゆりん族だったんだ。ああいう姉を持つと苦労するよ」
「でも、最後。デメリットさを感じさせないってとこ。もしかしたらいけるかも」
「ちょっとやめてよお兄ちゃん! まだ決めたわけじゃないんだからねっ!」
「はいはい、わかってますとも」
「もうー!」
●敷島女子に入って良かったと思うところ
1位 ともだちが増えたこと
2位 部活と勉強の両立が図れるところ
3位 ここでしか出来ない体験ができたこと
4位 進学に有利だと実感したこと
5位 夢に向かって前進できたと実感出来たこと
「こうして、同性のともだちばかりが増えるんですね、お兄ちゃん」
「もしも、今から僕が、敷女卒のカノジョを作ろうとすると、結構、敷居が高いかも知れないなあ……」
「高嶺の花的な意味で? 紫織が? 冗談ポイですよお兄ちゃん!」
「まあ、初日は、ホームページ観察という訳で、気が済んだかな? よーく考えて、お父さんとも相談して、じっくり決めよう。じゃあ、オレ帰るから、一晩眠って、よく考えなよ! 沙織ちゃん!」
「はい! そうしますー! 今日はお忙しい中、ありがとうございました」
「んじゃな、しっかり頼むぜ! じゃあまた今度」
「はーい! じゃねー!」
霜田拓也は、階段を降りると、母親に一礼して玄関ドアから帰って行った。
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