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郁子「試してみるかい」
柳原「試す」
郁子「もちろん」
柳原「お願いしよう」
郁子「(客に向かって)この軍人さんは、この子(千鶴子)の千里眼を試すそうだよ」
わーっと客たちが盛り上がる。
その間、ずっと千鶴子は黙って空を見つめて座っている。
× ×
千鶴子は目隠しをして椅子に座っている。
その背後に衝立が置かれて、少し離れて柳原が花札を持っている。
柳原、花札を一枚ずつあげて客に見せていく。
もちろん位置からしても目隠ししていることからも千鶴子には見えるはずがない。
千鶴子 「松に鶴… 梅に鶯… 芒に月…」
全部当たっている。
そのたびに客が湧く。
柳原「当たってるんですか」
と、また一枚引く。
千鶴子「(まったく表情を変えず)紅葉に鹿」
郁子「おや、シカトだよ」
渡辺「(客席で)シカト?」
山川「鹿の絵で十月だからな。鹿がそっぽ向いてるだろう。それでシカト。妙に合ってる(と、変な調子で笑う)」
郁子「おい、おしまい」
柳原、不満そう。
郁子「信用していただけましたか」
柳原「そうだな…」
千鶴子「(目隠ししたまま、いきなり言う)それはわらを火にくべているんですよ」
一同、え、と当惑する。
特に柳原は驚く。
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