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柳原「(読み上げる)"藁一貫が絹五匁になるとして、ほとんどただの物が一円二十銭になると。しかも、わらだったらほとんど無尽蔵に供給できる。庄内は米の名産地として有名であるが農家の収入は必ずしも多いとは言えないその状況を根底から改善する日本国建国以来の大発明である 。"…しかしこれですとこの記事を書いた記者の主観による判断でありますね」
渡辺「そうだな」
柳原「産業というものは科学に基づくものであり、科学には主観の入り込む余地はないのであります」
渡辺「もちろんそんなことはわかっている。ただこの発明を支持しているのは新聞社だけじゃないのだ」
柳原「どういうことでしょう」
渡辺「まず村人たちだ。記事にも出ているが、村の生活は豊かとは言えない。現金収入の道があれば飛びつきたくなるのは人情だろう」
柳原「しかし出来もしない絹でつるのはこれは詐欺ではありませんか。その設備を整えるのに出資を募っているのでありませんか」
渡辺「まさにその通りだ」
柳原「でしたら村人たちにその誤りを指摘し詐欺師から守るべきでありませんか。 ありもしない希望を持たせるのは罪作りですし、金銭的な損害をもたらすのは明白です」
渡辺「だからその役目を君に果たしてもらいたいのだ」
柳原「しかし自分は科学技術に携わる者とはいえ、身分は軍人です。なぜそのような役目を仰せつかるのでしょうか。それは警察の役目ではありませんか」
渡辺「確かにそうだ。だが この話はまだはっきり詐欺と証明されたわけではないし、もし詐欺だと表沙汰になったら村にとっては大きな恥になる。
柳原「はい」
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