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「拓弥……女を連れ込むとは、いい度胸だな……」
低い声で言われて、莉子は慌てて首を左右に振る。
「たくやって、誰ですか……?」
「しらばっくれんなよ、おい! 拓弥、出て来い!」
部屋の奥に向かって声を張り上げた。
「たくやなんていませんっ」
「いいから、ここ開けろ! 鍵穴に何しやがった!?」
莉子はやっと合点がいく。
「あの、ここ、私の部屋です!」
違う部屋の鍵ならば、差すことも叶わないのだろう、それで男は怒り出したのだと判った。
「はあ!? 何を言って……!?」
「本当です、部屋番号、確認してくださいっ!」
ドアの脇に部屋の番号は印されている、それを指さすようにして言うと、男は怪訝そうに視線を上げた。
それが視界に入った途端、「あ」と言う顔になり、すぐに全ての怒りを解除する。
恥ずかし気に莉子を見下ろして微笑み、
「済みません、とんだ勘違いで……俺の部屋は、もうひとつ上でした」
さっきまでの怒りの表情と違って、優しく温和な笑みに莉子は簡単に警戒心を解いていた。
「いえ……判っていただけたなら……」
「本当に大変失礼しました」
何度も詫びて何度も頭を下げる男の姿がドアの向こうに消えた。
(上の階か……あんな格好いい人が住んでたんだ……)
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