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その背を莉子は、弁当を抱き締めるように持ったまま見送った。
エレベーター脇の階段エリアに入っていく直前に藤堂は振り返り、再度莉子に会釈した、ずっと見ていたのがばれてしまい、莉子はますます恥ずかしくなる。
部屋に戻り、小さなダイニングテーブルにもらった弁当を置いた、それまで特にお腹は空いていなかったのに、何故だか急に空腹を覚えた。
箸を出しテーブルに座る、そっと手を合わせてから箱を開けた。
途端においしそうな香りが鼻腔をくすぐった。
ぐう、と胃がその場所を知らせる。こんな感覚はいつ以来だろうか。
白いご飯の上にたっぷりの生野菜と、ヒレとフォアグラのステーキが乗っていた、甘辛く感じるソースと肉汁がご飯に沁みていて、一見大量と思えた弁当だったが平らげてしまった。
「──おいし……」
味覚もお腹も満足な食事など、遠い記憶だ。
お菓子でも固形物を口にするならまだいい方、最悪液体のみしかも水だけなんてこともある、誰も注意しない生活がいけないのだろうか。食事はお腹が膨れればいい、くらいでしかなかった。
(藤堂さん……か……)
重く感じる胃を押さえながら、長身の美丈夫の姿を思い出していた。
真夜中に部屋を抜け出した。
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