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「とんでもない。俺も作るのが好きだからこの仕事をしているので、おいしいと言ってもらえて嬉しかっただけです」
優しい笑顔を、莉子はチラチラと見る事しかできなかった。思えばこんなに男性が近くにいるのは、随分久々だと思い出した。
藤堂は弁当を差し出す、昨日と同じ紙製の箱型の弁当箱だった。
莉子は小さな声で礼を述べてそれを受け取る、その手を藤堂は包み込むように触れた。
「──はい!?」
莉子の心臓が飛び出しそうになる、温かい手は振り払いたくてもできなかった、弁当を持っているからと心の中で言い訳する。
「あの……!」
「冷たいですね」
「あ……クーラー、効き過ぎかな……?」
何処を見てよいか判らず俯くと、その顎に指がかかって上を向かされた。
「──え……!?」
間近に迫る藤堂の顔に、恥ずかしくも、見惚れる。
「──顔色も悪い」
「え?」
現時点では顔は熱いくらいだが、それでも悪いのだろうか。
「あ、あの……っ」
近い、息がかかるほどの近さに戸惑う。
「──判りました」
その声は、初めて会った時のように低く怖かった、何を怒らせたのだろうと莉子は体を強張らせる。
「俺の弁当だけで生きながらえていると言うなら、その責務を負いましょう」
「え!?」
それがなくても今までだって十分生きていた、と思うのに、とんでもない宣言をされた。
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