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「食べる事は生きる事です。一人分作るのが増えた事でどうと言う事ではありません」
優しいが有無を言わさぬ物言いに、莉子は小さくなって、礼を述べた。
恐らく藤堂にとっては、本当に家族に食事を作っている気分なのだろう。嬉しいが、恥ずかしい……でもそれを言うのは憚れた。
今日も笑顔を残して去る藤堂を見送って。
部屋に戻ると、莉子はまだ温かいその弁当を早速頬張った。
家にある材料だったのだろう、今日はぐっと和風の弁当だった。メインはサバの味噌煮、付け合わせはインゲンの胡麻和えや茄子とピーマンの炒め物だった。
「……すごい……こんなものも作れるんだ……」
正直母が作る料理より美味しいと思えた、普段客に料理を振る舞っているからだろうか、フレンチとは全く系統の違う料理と言えども間違いない味付けがされていた。
「……こんな人は、どんな人と結婚するんだろうな……」
どうでもいい心配をしていた、少なくとも食事など口に入ればいいと思っている自分はその価値はないだろうと思えて哀しくなった。
(それに……私に恋愛なんか無理……)
ひきこもり、人との接し方が判らない莉子に恋人や結婚ができると思えない。
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