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パソコンの画面を睨みつけながら、キーボードを叩きつけていた。
夜だと言うのに気温は下がる気配がない。家の外はうだるような暑さだが、殆ど家から出ることない莉子には関係ない事だった。ただエアコンを切れば死にそうな室温になるので、早く秋が訪れないかとは思う。
パソコンの脇に置いてあったスマートフォンが震えて着信を知らせる、画面を見て更に眉間に皺が寄った、双子の姉、花村香子の名前に吐き気を感じる。
しかし出なければ繰り返し鳴るだけだ、莉子は着けていた大きなヘッドホンを外し、諦めて通話ボタンを押した。
「はい」
『どう? 順調?』
姉妹と言えども、遠慮のない不躾な会話だった。
「……そうでもない」
莉子は憮然と答えた。
『そう、今回は歌詞だけだからすぐ終わるかと思ったけど、仕方ないわね、あと一週間待ってもらうわね。来週にはレコーディングだから、それ以上は待てないわよ? 相手のある事だからちゃんとやってね』
波に乗っているアイドルグループへの楽曲提供だった、言われなくても判っている、それでも焦るほどメロディーも歌詞も出てこない。
『それと、今度デビューするバンドちゃんに楽曲提供することになって』
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