早起きは三文の徳かもしれない

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中学校も部活も慣れてくるにつれて、だんだん新鮮さが薄れていった。授業を緊張して受けることもなくなり、素振りばかりの卓球部も少しづつ嫌気がさしてくる。素振りとピンポン玉を使った壁打ちは人が通るところでやるから、他の生徒や同級生に笑われてしまう。 おまけに夏が近づいて朝練の時間が早くなり、遅れてきたり休む部員もいた。私と美奈子は頑張っていた方だけれど、美奈子は眠そうな顔をしてやってくる。私はと言えば朝早いのは平気だったので、一人でも朝練に行くことがあった。 一人でピンポン玉を追いかけて壁打ちしていると、いつも通りがかる先輩にじっと見られていることに気がついた。学年を表すバッジが緑だから二年生だ。一年生は赤で三年生は黄色。二人組で一人はものすごく不機嫌そうな顔をしている。目も細くてこちらを睨んでいるんじゃないかと心配になったくらいだ。もう一人は、目がくりっとした人。外の部活動なのか肌が日に焼けて浅黒い。髪の毛は天然パーマが入っていて、くるくるっとしている。 同級生の女子はどの先輩が格好良いかって、きゃあきゃあ言っていたけれど、兄や姉がいない私にとっては先輩は気後れする存在だ。できるだけ関わりにならないように気をつけている。下手に目をつけられたら大変だもの。 二人の先輩は私を見て何か話しているようだったけれど、何とか無視をしてピンポン玉を見るようにする。こうして誰かに見られるのは嫌だけど、朝の爽やかな空気は好きだった。何度か壁に向かって打っているうちに、ラケットから外れて飛んで行ってしまった。 (マズイ!) まだこちらを見ていた先輩の方に転がっていく。糸のように細い目の先輩が拾って、なぜかそのピンポン玉を天然パーマの先輩が取って、私の方に歩み寄ってくる。 「あ、すみません」 「毎日、頑張ってるね」 急いでピンポン玉を受け取って逃げようと思っていた私は、硬直してその場から動けなくなってしまった。天然パーマの先輩はニコニコ笑って、私の手のひらにピンポン玉を乗せる。顔が一気に赤くなって、早く立ち去ってほしいと思っていた。 「あ、ありがとうございます」 「うん、それにさ。俺、ずっと思っていたんだけれど」 この時、目の細い先輩の目が少し大きくなる。
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