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「そういえばヨシハル、今日は確か誕生日だったな。おめでとう」
「ありがとう。と言っても、毎年見た目の変化はないから誕生日って実感はないけど」
朝食のためにみんなが集まる広間にやって来ると、人数分の皿とコップが置かれた地面の上に直接座る。ここでも机や椅子なんてものはない。カーペットなんていう洒落たもんはないので、俺達にとってはこれが普通なのだ。
ヨシハルと談笑しながら他のみんなが集まってくるのを待っていると、上から声がして、一緒に土埃が落ちてくる。
「何か上がうるさいな。土埃が落ちてくる」
たまにこういうことがある。上の世界でも人がいて、誰かと言葉を交わし、生活しているのだろうか。
「みんな、ご飯の時間だ」
「と言っても、ご飯を想像するだけだけどな」
「俺達みんな飯食わなくても平気だし、怪我や病気もしないし、なんでだろう」
「さあな。そういう種族なんだろ」
村長の声でみんなでそう盛り上がり、一斉に目を閉じて食事の想像をする。目の前の食器を使うことは、一生ない。食べ物とは、飲み物とは、どんな味がするんだろう。どんな食感がするんだろう。それは、絵本からは何も伝わらなかった。
「ごちそうさまでした」
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