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ギネの暴君 その2 そして彼は戻らなかった
オペの直前、宮本准教授は敬虔なクリスチャンのように、両手の指を胸の前で組んで祈りを捧げた。
「へぇ、殊勝なことするじゃん」
今日の手術は子宮筋腫の摘出術。産婦人科の手術の中で、非常に多い手術だ。子宮筋腫とは、子宮という聖なる筋肉の中にできる良性のしこりである。良性ではあっても生理への影響もあるし、大きく育つと赤ちゃんの頭くらいになる。こうなると、腸管など周囲の臓器も圧迫するし、影響は小さくないので手術するのである。
そして手術開始。宮本准教授がメスでサッと皮膚を切開する。電気メスで皮下脂肪を切開し、さらに深く進んで腹膜を切開した。腹膜を開けると、その中から内臓が出てくる。
「じゃ」と宮本准教授が第一助手の先生に合図をすると、二人の先生が開いたお腹の縁を両手でつかんだ。
「せーのっ!」
二人の先生がまるで船の櫓(ろ)を漕ぐかのようにお腹の縁をつかんだまま後ろにのけぞった。
「何てことするんだ!」
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