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あとに残されたわたしたちが、どちらともなく歩きだす。そのうちに先輩がぽつり。
「先生たち親子だったんだね。知らなかった」
「わたしも。初耳でした」
さっきまでたどたどしかったのが嘘みたいに、なめらかに言葉がでてくる。先生に聞かされた話のほうが衝撃的で、先輩としゃべる緊張はどこかに飛んでいってしまった。
そっか、と応じた先輩の頬に、なにかしら考えこむ気配がほのめいた。
「弁当持ってきたんだけど、購買のパン食べたくなったな」
「そうですね。でも……」
タイミングの悪いことに、わたしもお昼を買ってしまったあとだ。
日もちしそうなコンビニのぶんを持ち帰るか、いさぎよく諦めて明日にするかと迷っていたら、
「まえに鬼甘買ってたよね。どのくらい甘かった?」
「評判どおりというか。胃もたれまではしないですけど、それなりに」
「じゃあ、やっぱり分けるくらいがちょうどいいのか。……残念なことしたな」
「え?」
立ちどまって隣を見る。まぢかで目があってしまい、一瞬で顔に熱があつまる。
同じく足をとめた先輩は、こないだびっくりして断ったけど、と前おきして、
「よかったら、はんぶんこしませんか」
あのときの、わたしのせりふを口にした。
頭がとれそうなほどの勢いで頷く。ぶんぶんぶんと、音がでそうなくらいに。
その様子がよっぽどおかしかったのか、ふっと先輩が表情を崩した。
胸いっぱいにあふれたのは、笑われた恥ずかしさよりも、鬼甘なんか比べものにならないほどの甘さだった。
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