のこりものふたり

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(できないんじゃなくて、やらないだけなのかも)  運動音痴のわたしには、先輩はそう見えた。だからこそ、もったいないと思った。  もし、わたしが先輩だったら。あんなふうに、なにかしらの武器(・・)があったら。  もっとクラスのみんなとも、なじめたかもしれない。もっと自分の意志を、まわりに伝えることができたかもしれない。  購買のパンだって、先頭グループにまじるのは無理でも、残りものじゃなくて……。  そんな夢みたいなことを考えていたら、軽く肩をつつかれ、いっきに心臓が縮んだ。  こわばった体で、おそるおそる目線を移す。教室内を歩いていた先生が、いつのまにか隣に立って、意味ありげなほほえみでわたしを見おろしていた。  とっさに周りに目をやる。朗読の声は続いていて、このことには誰も気づいていない。  すみません、と口ぱくで頭をさげ、おおげさに教科書を手にして集中するふりをした。  ぬすみ見た先生の瞳には含みのなごりがあったけれど、とりたてて叱ったりするでもなく教壇へ戻っていくと、なにごともなかったかのように授業を続けた。
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