三、回想(後)

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心咲と同棲するようになってから数ヶ月。 俺と心咲は手を繋いで、桜の咲く河川敷を歩いていた。 「綺麗…。」 桜を見上げながら、心咲はぽつりと呟く。 あの「泊めて。」から俺たちは一緒に住むようになった。心咲は意外とわがままで、思った通りの甘えん坊で、そして泣き虫だった。 ふと俺の口からあくびが漏れる。 「…ほわ…。ああ、うんそうだな。」 心咲は少し拗ねたような表情で俺を見る。 「眠いの?」 「ああいや、大丈夫だよ。」 眠いは眠いが、実際大丈夫だった。納得いかなそうな心咲を連れて、桜の木の下の坂に腰掛ける。心咲も隣に座る。俺はそのまま坂に寝転がった。一心に咲いた桜の花は青い空に透けて、淡い桃色に輝いていた。心地よい風が吹き、桜の花と、横に居る心咲の髪が少し揺れる。幸せだった。 「綺麗だな…。」 綺麗だった。それはとても綺麗だったー。 ふと手をぎゅっと握られ、俺ははっとした。 ーあれ…。何してたっけ…。 俺は体を起こす。辺りは茜色で少し暗くなっていた。横を見る。膝を抱え、ぶすっと完全に拗ねきった心咲の横顔があった。 「あれ…。ごめん…。」 「ずっと寝てた。」 そのままの表情で心咲は呟く。 「ほんとごめん…。起こしてくれても…、」 「起きなかったの。」 ずっと拗ねた表情の心咲に、俺はやれやれと思いながらも謝る。 「ごめんな。」 実際こんな遅くまで寝てしまったのは俺な訳で。謝りながら、視線を心咲から前の川に向けた時だった。 「…ねぇ。」 心咲が言った。拗ねた声じゃない。悲しい声だった。俺は心咲へと視線を戻す。心咲は川を見ていた。 「わたしの事、好き?」 「好きだよ。」 俺は答える。心咲の声は変わらなかった。 「…わたしと居て、幸せ?…わたし迷惑かけてない?傷付けてない?無理、させてない…?」 ーなんだよそれ…。 そうムッとして言いそうになった言葉を、俺は飲み込んだ。なにかの違和感を感じて。 「…最近わたしわがまま過ぎたかなって。夜中に寂しいって起こしたり、泣いてたらいつも傍で起きてくれてるし…。わたし甘え過ぎてたかな。あまり寝てないの知ってるのに、起こせないよ…。」 …起きなかったんじゃない。心咲は俺を起こさなかったんだ。
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