三、回想(後)

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どう言えばいいか分からずも俺は口を開いた。 「なぁ心咲。」 俺はゆっくり話す。 「俺さ、心咲のその笑窪がある笑顔、好きなんだよ。」 へ?っという顔で心咲は振り向く。握っていた手が少し熱くなった気がした。 「その笑顔が好きで咲かせたかった。泣いたり怖がる時は実際俺も辛いけど、その後に笑うその笑顔大好きなんだよ。それ見ると俺幸せに思う。だから俺は心咲と居て幸せ。心咲のその笑顔、守りたい。」 上手く言えてはいないが、俺の気持ちそのものを言葉にした。心咲は何故か少し拗ねたような顔をする。 「むー、わたしこの笑う顔大っ嫌いなのに。治そうとして練習までしたんだよ?」 心咲のその言葉に思わずふきだす。 「ぶっ。練習までしたん?なんかかわい」 「かわいい言うなし」 二人で少し笑い合う。そして心咲はふとこう言った。 「ありがと。でも無理はしないで、お願いだから。わたしの帰る家はもう…あなたしか居ないもん。」 その言葉にふと気付く。俺が無理したら彼女の笑顔は咲かない事に。 「ああ。分かった。でも心咲も無理するなよ。お互いに、な。」 「うん。…あと…、」 少し口をつぐんで心咲は声を出す。 「ほんとに辛い時、死にたい、って言っていい?」 俺の心は少し苦しくなる。でもそれを言うなといってしまうのは、彼女の心の声に蓋をしてしまう気がした。少し言葉を迷って俺は言う。 「…心咲が辛いなら言って欲しい。辛い分言って欲しい。でも」 俺は心咲の瞳を真っ直ぐに見る。 「死なないで。俺の勝手で悪いけど心咲居ないと辛いから。俺は心咲が居るから幸せなんだよ。」 「…うん…ありがと。」 心咲は複雑な表情をしていた。 「なんかそう言われても…、実感わかなくて…。」 俺は繋いでいない方の手を心咲の頭に乗せ、そっと撫でた。 「不安なら何度も何度も飽きるまで言うよ?実感わくまで。」 その言葉に心咲はやっと笑顔を覗かせて少し笑う。 「ありがとっ。嬉しい…」 安心した俺は立ち上がり、繋いだ手で彼女を立たせる。 「帰るか。」 「うんっ。」 心咲と手を繋いで帰る。空を見上げると日は沈みかけ、藍色の闇に少しだけ茜が混じっていた。
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