三、回想(後)

4/4
前へ
/26ページ
次へ
それから暫くした冬間近。遅くなった俺は玄関を開け家に入る。家に帰ると電気がついてることに俺は慣れ始めていた。 「ただいま。」 「おかえり…。」 拗ねた心咲の顔。 「今日も遅いよ…、仕事?」 「ああごめんな。うん、仕事忙しくて。」 鞄を置き、頭を撫でようとしたその手を心咲はそっと掴む。 「最近ずっと遅い。」 「ごめん。」 「ごめんばっかり。」 「うーん…。」 確かに最近ずっと俺は遅い。いやまぁちゃんと理由はあるのだが…。まだ心咲には言えなかった。 「明後日さ、休みだから二人でどこか行こうよ。」 「…うん。」 まだ拗ねている心咲に俺も少し機嫌を悪くする。 「どうしたん?」 「ううん別に何でもない。」 「うーん…。」 困った顔の俺にも、心咲はずっと拗ねたままだった。 心咲の機嫌がなおらないまま、俺は寝支度を整えベッドに入ろうとした時だった。 「…寝るの?」 心咲は悲しげな声で訊いた。 「心咲おいで。」 仕事で俺は疲れていたけれど、安心させたかった。ずっとずっと変わらず好きな気持ちを伝えたかった。心咲はそっと、寝ている俺の前に体を滑り込ませる。俺はその心咲を腕でそっと包み、彼女の手をそっと握った。 「…わたし、怖い…。」 心咲の震えた声がした。眠りそうな俺は、眠気に耐えながらも呟いた。 「…大丈夫…。ずっと心咲が、大好きだからー…。」 …そこからの記憶は、俺にはない。 けたたましいスマホの呼び出し音で俺は目が覚めた。まだ暗い。そして…、俺の前に居た筈の、そして部屋にいる筈の、心咲の気配が全く無かった。酷く嫌な予感がして、恐る恐るスマホに出る。 「警察ですがーー。」 …言っている意味が分からなかった。俺はそのまま玄関から外に飛び出していた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加