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それから暫くした冬間近。遅くなった俺は玄関を開け家に入る。家に帰ると電気がついてることに俺は慣れ始めていた。
「ただいま。」
「おかえり…。」
拗ねた心咲の顔。
「今日も遅いよ…、仕事?」
「ああごめんな。うん、仕事忙しくて。」
鞄を置き、頭を撫でようとしたその手を心咲はそっと掴む。
「最近ずっと遅い。」
「ごめん。」
「ごめんばっかり。」
「うーん…。」
確かに最近ずっと俺は遅い。いやまぁちゃんと理由はあるのだが…。まだ心咲には言えなかった。
「明後日さ、休みだから二人でどこか行こうよ。」
「…うん。」
まだ拗ねている心咲に俺も少し機嫌を悪くする。
「どうしたん?」
「ううん別に何でもない。」
「うーん…。」
困った顔の俺にも、心咲はずっと拗ねたままだった。
心咲の機嫌がなおらないまま、俺は寝支度を整えベッドに入ろうとした時だった。
「…寝るの?」
心咲は悲しげな声で訊いた。
「心咲おいで。」
仕事で俺は疲れていたけれど、安心させたかった。ずっとずっと変わらず好きな気持ちを伝えたかった。心咲はそっと、寝ている俺の前に体を滑り込ませる。俺はその心咲を腕でそっと包み、彼女の手をそっと握った。
「…わたし、怖い…。」
心咲の震えた声がした。眠りそうな俺は、眠気に耐えながらも呟いた。
「…大丈夫…。ずっと心咲が、大好きだからー…。」
…そこからの記憶は、俺にはない。
けたたましいスマホの呼び出し音で俺は目が覚めた。まだ暗い。そして…、俺の前に居た筈の、そして部屋にいる筈の、心咲の気配が全く無かった。酷く嫌な予感がして、恐る恐るスマホに出る。
「警察ですがーー。」
…言っている意味が分からなかった。俺はそのまま玄関から外に飛び出していた。
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