二、回想(前)

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彼女と最初に会ったのは、なんとなく入った雑貨屋だった。俺の一目惚れだった。バイトで働いていた彼女は、俺と目が合った時にそっと微笑んだ。もちろん営業スマイルなのは分かっていたけれど、可愛いその笑顔に俺は心を奪われた。 それから連絡を重ね、話しをそこそこするようになったある日の夜、突然彼女からLINEが届いた。 ー「ごめん…、家行ってもいい?」 なんだろう?とは思いつつも、俺は即いいよと返事をした。散らかっていた部屋を急いで片付け、柄にもなくワクワクしていた。彼女が来る、その事が胸を高鳴らせた。 家のチャイムがなり玄関を開けた俺は、…絶句した。目を疑った。彼女が立っていた。別に何ら外見に変なところがある訳じゃない。が、確実に俺の知る彼女とは全く違う彼女だった。力なく垂れ下がる手。生気の無い体。虚ろな無表情で彼女はゆっくり俺を見上げる。その目の瞳は真っ黒で、どこまでも吸い込む闇そのものの様な気がした。彼女はなにも言わずゆっくり中に入り、そして玄関の戸が閉まる。小刻みに震えている彼女に気づいた俺は、何をしていいのか分からなかった。抱き締めたらバラバラと彼女が砂の様に砕けてしまいそうで、それでも震えるその手は、何かの温みを探しているようで…。さんざん悩んだ俺は、壊れないようにそっと彼女の頭を撫でた。噴き出すように彼女の目から涙が溢れ、その場に彼女はうずくまる。ひたすら泣く彼女に、俺は頭を撫でながらその場に居ることしか出来なかった。
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