さよならの日

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中学の卒業式の日。 先輩は4階の社会科準備室で私を待っていた。 「先輩!」 準備室の扉を開けると、先輩が窓の外を見ていた。 「ああ、卒業式終わったのか、陽菜」 「はい」 卒業証書の入った筒を手に先輩に近づくと、 先輩は優しく笑った。 「陽菜は4月生まれだっけ?」 「そうです。4月20日」 「それじゃ、あと一か月ちょっとで陽菜のほうが俺より年上だな」 その言葉が私の胸を締め付けた。 「先輩……私が一年待ったのは先輩と同い年になるためです。  だから……」 私が窓を開けて窓枠に手を掛けると、先輩が私の手を掴んだ。 「それはダメ。俺、年上が好きだから。陽菜が俺の6倍くらいの年になってから来て」 「それって年上過ぎませんか?」 「いいじゃない。今は年の差婚なんて普通だし。どうせなら有り得ないくらい年の差があるほうが面白いしね」 先輩は目を細めて笑った。 「ああ、でも良かった。陽菜を止めなきゃと思ったからか、初めて陽菜に触ることが出来た」 大きな先輩の手が私の頭にポンと置かれる。 「あの日から一度も触れなかったからな。今日、触れることが出来て良かったよ」 「先輩……」 「あ、もしかして、手以外の部分も 触れるのかな?」 先輩は体を少し屈めて、私の額にキスを落とした。 「お、できた! まさか陽菜にキスできるなんて思わなかったから、うれしいな。これで俺は満足だ」 「私は……満足じゃないです」
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