さよならの日

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「陽菜は欲しがりだな。ま、次に会うときは何をして欲しいか、考えておいてよ。時間はたっぷりあるからさ」 先輩の笑顔が、段々と窓の外の青空に溶けていく。 「……先輩!」 「自死はダメだよ。俺と同じところに行けなくなっちゃうからね。ほら、俺、いい奴だったから、行き先天国だろうし」 自分で言って恥ずかしくなったのか、先輩が自分の頭をかいた。 「なーんて、いい奴は自分でいい奴なんて言わないか」 「そんなことないです……先輩がいたから私は吹奏楽続けられたんです!」 涙をこらえて先輩に伝えると、消え去りそうな先輩の手が私をもう一度撫でた。 「高校に行ってもやめるなよ、吹奏楽。お前の音楽を俺は空の上でずっと聞いているから」 「先輩……」 「それじゃ、またな。陽菜」 またなという言葉を残して、先輩は青い空に溶けるように消えて行った。 『かわいい後輩の卒業を見るまでは死んでも成仏できないって』 病室での先輩の言葉がこんな形で現実になるなんて。 社会科準備室はいつも私たち金管の練習場で、2年前、私はここで先輩に吹き方を教えてもらった。 あなたがいたから吹奏楽を始めたんです。 あなたがいたから吹奏楽を続けられたんです。 『あなたがいたから、こんなにずっと吹奏楽を続けられました』 次に先輩に会ったらそう言おう。 私は先輩の溶けていった青空を見上げて、そう誓ったのだった――。
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