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初めてこんなに声を聞いたな、そんなことを思った。 受話器の向こうから届くのは何となく思い込んでいたのとは随分違っていて、例えるならきっとシロクマが喋ったらこんな声だろうと思うような優しい、耳障りのいい音だった。 「……聞いてる?」 「あ、はい、ええと、すみません」 まさか考えていたことを伝えるわけにも行かず、私は曖昧に返事をする。 「一応確認ね。明日は10時集合に変更。体育館で男女合同練習のあと、女子は校庭に場所変えるから、運動靴忘れないで。判った?」 「はい、わざわざありがとうございます」 「でも珍しいよね、スマホないとか」 「お手数かけてすみません」 「いや、それはいいんだけどさ。それじゃ」   素っ気ない言葉とともにプツ、という音。あっ気なく電話は切れる。 副部長というのはこういう連絡網も回さなきゃいけないんだなぁ、大変だなぁ、そんなことを思って。 いや私以外はみんなメールかラインで済ませられるのか、と考えて。 これはもしかしてとてもラッキーな特権なのではないか、ということに気が付いた。
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