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「親がダメっていうやつ?」
「何がですか?」
さらに何度目かの電話で、ふいに先輩の方から伝達事項以外のことを初めて話してきた。
先輩の方から話を振ってくることは想定外で、私は不意に暴れ出す心音が電話越しに聞こえないかと慌てながら、それでも何とか平静を装う。
「スマホ。みんな持ってるじゃん」
ああ、ついにこの質問が来てしまったか。
いつか言われるだろうとは思っていた。近いうちに買えるとは思ってるんですけど。入部届を出すときにそう答えたのは私だ。そのときは確かに買うつもりだったのだ。だけど。
「すみません、私だけ毎回電話とか面倒ですよね。買うつもりではあるんですけど」
「いや、……そういう意味ではないんだけど」
いや、のあとに続いたほんの僅かな沈黙に、やっぱり面倒だったんだろうなと胸がきゅうとする。
返す言葉が見当たらなくて、それでもとりあえず後輩としての正しいであろう言葉を早口で絞り出した。
「あの、連絡が大変だったら、誰か一年の女子にメールしてもらえれば私にも伝えてくれると思うんで大丈夫です」
「いや、だから」
「ありがとうございました、失礼します」
勢いで通話ボタンを押す。
そうなのだ、判っていたのだ、先輩にとってみれば、他はみんなメールで済むのに私にだけ電話しなくてはならないのはかなり面倒だっただろう。
スマホは、言えばすぐに買って貰える。
ただ私が聞いていたかっただけなのだ。
ただ私が、先輩の声を聞いていたかったのだ。
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