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 あたしの背中にはアゲハチョウの羽がある。  自分で出そうと思えば、背中から羽が出てくる。  あたしは、幼稚園児のときに、妖精のお医者さん(フェアリー・ドクター)だったヨウちゃんのお父さんから、妖精のタマゴをもらった。アホっ子のあたしは、そのタマゴを、アメだと思って飲み込んじゃった。  お腹に入ったタマゴは、八年かかって孵化した。  そうしてあたしは、人間でも妖精でもある、ヘンな体になっちゃった。 「あたしは、二度と羽を出さないって約束したの。そのかわりに、妖精でい続けることをヨウちゃんは許してくれた。あたしは、自分の羽と交換に、ヨウちゃんと別れたのっ!」 「……それ……和泉の口からきくと、やっぱりキツイな……」  誠が自分の頭に手を置いた。 「えっと……。たしか、妖精の羽が出すりんぷんは、万能薬なんだったよね。妖精の病気を治したり、妖精から受けた人間の傷を治したりできる。葉児のつくった薬でさえ、りんぷんの前には効力を失う……」 「……うん」  誠の言葉で実感した。  ヨウちゃん……本当に誠にぜんぶ話したんだ……。  ヨウちゃんとあたしはフェアリー・ドクター。つまり妖精のお医者さん。フェアリー・ドクターがつくった薬は、妖精に関することに効く。  その頂点に立つのが、妖精の羽のりんぷん。 「あたしがまだ羽を持ってるってことは、とっても危ないことなの。いつまた、黒い妖精が出てきて、あたしの体をのっとろうとするか、わからない。だから、あたしはこの羽を持っていることを、ぜったいにバラしちゃいけないんだ。 それにね、黒い妖精は、ヨウちゃんのまわりにいる人を巻き込む。ヨウちゃんは、だれも巻き込まないように、自分のまわりから、人を遠ざけた。あたしは……あたしはね……。いざというときは、この羽で……」 「葉児を癒してあげたいんでしょ?」  トクンと心臓が鳴った。
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