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「じゃあ、綾ちゃん、また今度」
「有香ちゃん、バイバイ。次の部活でね~」
ひとりで校庭をかけていく有香ちゃんに手をふって。ヨウちゃんとならんで校庭に出ると、直射日光が脳天を刺した。
あ……マズイ。目の前、チカチカ。
「え? 綾?」
さしだされる頑丈な太い腕。そこにぎゅっとつかまって。顔をうずめて。眉間の力を抜いて。
「ごめんね。もうだいじょうぶ……」
顔をあげると、ヨウちゃんの目が不安そうにゆがんでた。
「これは……やっぱり、ふつうじゃないな」
「え?」
「綾……。本当にハグとは、あれからなにも接触してないんだよな?」
え? ……ハグ……?
なんで今……?
「ヨウちゃん。まさか、あたしのふらふらの原因は、ハグだって思ってる?」
「……わからない」
一歩、二歩。ヨウちゃんが歩き出す。あたしの歩調に合わせて、せまい歩幅で。
その左腕に、両腕をまわしてつかまって。ほっぺたを二の腕にくっつけて。あたしもゆっくりゆっくり歩く。
この腕大好き。もたれていると安心する。皮膚はやわらかいけど、筋肉は硬くって。ちょっと汗ばんでる。
校庭には、耳鳴りのようなセミの声。
「たしかに、暑い中、綾をつれまわしたのはオレだし。それが原因だって言われれば、そうだとも思う。……けど綾。最近、体壊しすぎじゃねぇ?」
「お茶会のときのこととか? でも、それは……理由があったもん」
「その前もだよ。浅山で倒れたよな」
「あ、あれは熱中症でしょ? どっちも理由があるよ?」
「理由はあっても……。うわべの理由にまどわされているだけで、本当の理由は奥にひそんでいることだってある……」
校門の前で、あたしは立ちどまった。
……まさか……。
あたしがハグのために、りんぷんをつかったから……?
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