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「……綾?」 「う、ううん。なんでもない」  首をふって、また歩き出す。  あのとき。ハグのためにりんぷんをつかったあと。あたしの羽は、先がピンとのびきらないで、丸まってた。  あれからあたし、羽を出していない。だから、羽が治ったのかどうかわからない。  だけど……妖精の体の影響が、人間の体に出ているんだとしたら……。  家に向かう住宅街。一戸建ての家々の間のせまい道。  小学生のころ、ママに「人前でいちゃつくの禁止」令を出されてたのに、今、あたし、ヨウちゃんの腕にもたれて歩いてる。 「……ねぇ、ヨウちゃん。きょう、うちにあがってくれる?」 「え……? えっと。あ、ああ……」  ヨウちゃん、後ろ頭に手を置いて、うかない顔。  ……こまってる。  だよね。うちのママとパパ、ヨウちゃんのこと嫌ってるもんね。  ヨウちゃんはなんにも悪くなくて、悪いのはぜんぶあたし。あたしがひとりで勝手にやったこと。  なのに、何度あたしがそう言っても、ママもパパも耳を貸してくれない。  ママなんて、あたしが誠とつきあいはじめたとき、すごくホッとしてた。  だから、まだ話せてない。誠と別れて、ヨウちゃんとヨリをもどしたって。 「だいじょうぶ。今ね、うちに、だれもいないんだ。パパはもちろん仕事だし。ママもきょうは、撮影で東京。飛行機で行くから、帰ってくるの、夜になるって」  赤い屋根にピンクの壁の、あたしの家が見えてきた。  ヨウちゃんちみたいに、広い庭はなくて、コンクリートでかためられたガレージがあるだけ。  腕をはなして、家の門を開けたら、横から人の気配が消えてた。  ……あれ?  見あげたら、ヨウちゃんはちゃんといて、あたしんちの前の通りにつっ立ってる。  だけど、ヌリカベ? 今、頭の上にスズメが飛んでるけど、そのスズメがもし、おりてきて頭にとまっても、なんにも反応しなさそう。 「どうしたの? ママもパパもいないんだから、うちに来たって、気をつかうことないよ?」
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