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やっぱり……治ってなかったんだ……。
クローゼットの前に全身鏡が立てかけられていて、そこにあたしがうつってる。
ベッドに座って、羽を広げるあたし。
右の羽の先が、しおれた花びらみたいに丸まっている。
あのときと同じ。
羽の先まで力が入らない……。
「……ハグに……りんぷんをあげたの……。鏡の世界に入り込んじゃったとき。あたし、黒いウサギをハグだって、気づかなくって。ウサギさんが、すごくたくさんケガしてたから。治してあげなきゃって思って、りんぷんをつかっちゃったんだ……。
だけど、りんぷんを注いでも、注いでも、ケガは治らなくって……。そのうち、あたしのほうがつかれてきちゃって……。気づいたら、こうなってた……」
ヨウちゃんのほっぺたは冷たくなって、かたまってる。
まるで、崖の前まで、追いつめられた人みたい。
「……事情はわかった」
ヨウちゃんは奥歯をかみしめた。
「オレはこれから、鵤さんのところに行って、相談してくる。綾は、ゆっくり寝てろ」
「……ごめんね……」
鼻の奥がつんとして、あたしは自分の目の上に腕をのせた。
「ヨウちゃんごめんね……。あたし……なんで、いつもいつもこうなんだろう……。ヨウちゃんに、迷惑かけたくないのに。いっつも、あまえて……。心配かけて。もう、こんなのやめようって、思うのに……。また、気づいたら、迷惑かけてて……」
「気にすんな」
ふわっと、大きな手のひらが、あたしの髪をなでた。
ドキッとして、目の上から腕をあげる。
琥珀色の目がアップになって、上からのぞきこんでいた。
涙の膜でおおわれて、うるんだ瞳。
「綾。おまえはオレの宝物だから。ハグなんかになくされたりはしない。……ぜったいに」
かみしめるみたいに、つぶやいて。
ヨウちゃんはかがみこんで、あたしの前髪をかきあげて。おでこに冷たいくちびるを押しあてた。
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