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オークの根元で、鵤さんは立ちすくみ、青い瞳を見開いている。
その首筋に、妖精の羽のついた杖が、突きつけられている。
鵤さんの背後に立ち、杖をつかむ者は、黒いローブを足元まで引きずっている。
黒いフードを目深にかぶり、目が見えない。鼻も見えない。口さえ見えない。
顔の場所にあるのは、黒いモヤ。
こめかみから、冷たい汗が流れた。
「……ハグ……」
過去の映像じゃない。
オレの目の前にハグが立っている。
今……ほおを傷つけたのは、あの杖についた妖精の羽……。
「や……やめろ、ハグっ! 鵤さんをはなせっ!! 」
「はなせ、だと?」
口のあるべき黒いモヤから、老婆のせせら笑いがもれた。
「それが人にものを頼むときの態度か? きさまは知らないだろうが、すべての物事は、損得で成り立っている。あるいは、優劣。
きさまのような劣った者の言うことなど、なぜ、優れたわたしがきかなければならない? それをして、わたしになんの得がある?」
「な……なにを言って……?」
「このボケ老人をはなしてほしければ、それなりの見返りが必要だという話さ。そうだね、あの小娘の体がいい。人間の体を持っていながら、妖精の羽を持つ娘。あの小娘と、このボケ老人を交換しようじゃないか」
「だ、だれがっ!! 」
「うぐっ!」
鵤さんが顔をゆがめた。
「鵤さんっ!? 」
鵤さんの口が、黒いローブのそでに隠されたハグの手にふさがれている。
カリ……。
鵤さんの口元から音がした。
白目をむき、鵤さんが前のめりに倒れ込む。体が、足元からすうっと、後ろの黒いローブに溶け込んでいく。
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