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「和泉ぃ、ごめん。オレ、教室に数学の教科書わすれちゃったみたい。ちょっと、ここで待ってて」  放課後。ふたりならんで、昇降口におりたところで、誠に言われた。  あたしは手芸部員。誠はサッカー部員。  だけど、きのうから、部活はお休み。期末テストの一週間前に入っちゃったから。  誠がかけのぼっていった階段の下で、あたしはハァとため息をついた。  誠に……なんて言おう……。  キライになったわけじゃない。  誠のことは、幼稚園のころから好きだし、今だって好き。   だけどそれは……誠があたしを好きなのとは、意味がちがう……。  考えてたら、胃がキリキリ痛くなってきた。  だって……誠はいつもあたしに笑いかけてくれるのに……。 「あ~、もう! ずっとひとりでいたら、胃に穴があいちゃう!」  あたしは階段をのぼっていった。  教室まで、誠を迎えに行っちゃお!  テスト前って本当、生徒たちが帰るの早い。  校舎からあっという間にひとけがなくなって、外からの日差しが、中央階段をあわく照らしてる。  階段を三階まであがると、廊下がまっすぐにのびていた。  一年生の教室のドアが、ガラッと開く。 「あ、和泉ぃ。わざわざ迎えに来てくれたの~?」  誠が笑顔全開で走ってくる。  う……さらに、胃が……。  階段をあがったところにある全身鏡に背中でもたれて。あたし、誠に「えへへ」と笑った。 「よかったよ、家に帰る前に教科書のこと思い出せて。オレさ~、きょうこそ数学の勉強しなきゃって、思ってたんだよね~。和泉、四則計算って意味わかる?」  走ってきた足が、小走りになって、誠は立ちどまった。 「……和泉? どうしたの? ……なんか、あった?」 「……え?」 「だって……和泉、泣きそう……」  ドキッとした。  誠って、すごくカンがいい。人を見る力に長けてるんだと思う。  い、言わなきゃっ! 「あ……あの……誠……あのね」  あたしはぎゅっと、自分のスクールバッグの取っ手をにぎりしめた。 「あの、ごめんなさいっ!」  ガバッと頭をさげる。
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