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「流石です、ご主人様」
観客席に戻ったイサドラはライネルの戦いに見入っていた。
最初こそアルキアの魔法に対して慌てぎみに回避していたものの今は落ち着いた様子で最小限の動きで回避している。
(わたくしが教えた通り、相手の『刻印』から魔法の発動タイミングを予測している。学園内での決闘では、致死性のある高位の魔法は使えない。そして初級の限られた魔法程度であれば、ご主人様なら躱す事は容易い)
今、アルキアが新たに発動者が狙った対象に魔力の弾丸で援護する魔法『ファランクス・ビット』を発動した。形状は五つの魔法陣が重なったもの。最前列の魔法陣から計二十発の魔力の弾丸が発射される。
二十発の弾丸を撃ち尽くした魔法陣は消え、二列目の魔法陣が前に出て弾丸を撃ち始め、列が進む毎に最後列に同じ魔法陣が追加される―――といった魔法だ。
(あの魔法は毎秒二発で弾丸を撃つ……他の魔法と組み合わせれば、これで被弾し、追い込まれ、最悪負ける。だけど……)
「なぜだ、なぜ当たらない!!」
『アビス・ニードル』により下からの攻撃と『ファランクス・ビット』による横からの攻撃……その全てを、ライネルは難なく避けていた。
当然の結果だ。その原因をアルキアは自身の口で言っていたのだから。
「そして、それはご主人様も分かっていてあえて言わない。これも教えた通りです」
もう大丈夫だろうとイサドラはライネルから目を離し、ふと周りを見る。観客席に座って観戦している生徒全員がこの展開に困惑しているようだった。
「全く、なぜご主人様が最下位なのでしょう。結局は魔法が全てという事でしょうか」
現代、人によって使える属性の数に制限はない。
最初期の『刻印』はあらかじめ全属性の基本的な魔法が記録された移植型で、それにより移植された人達や、その親から遺伝し『刻印』が受け継がれた子供は、属性が二つしか使えないなんて事はほぼ無くなった。
それでもやはり向き不向きがあり魔法の威力などは個人差がある。
そしてイサドラが仕えるライネルには『刻印』は無く使える属性は火と光の二つのみだ。
(……忌ま忌ましい。あんな事が無ければご主人様は至高の『刻印』を剥ぎ取られる事もなかったのに)
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