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「ぐ、ぅ……」
「……よし、今日の稽古はこれで終了だ。しかし難儀な体だなぁマスター。毎日オレにボロボロにされ、レベルアップする様子も無く、なにが原因なのかすらオレにも分からないときた」
広大な草原で息も乱れる様子もなく銀色の剣を担いだ男がやれやれとぼやく。
「魔法は子供騙し程度のレベル、なのに剣の腕と身体能力だけなら軽く無双できるほど……ゲームなら脳筋な前衛職といったところか、っと」
「終わったなら早く回復魔法の一つでもご主人様にかけて下さいな」
「そう言いながら人の首を目掛けて大鎌を振るな」
急にしゃがみながら男が振り向くとメイドが一人にこやかな表情で歩み寄り、
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「うん……」
ボロボロな状態で仰向けに倒れている少年を抱き起こす。そのままメイドは右手を少年の胸に当てると、右手は明るい光を放ち、少年の体を包み込む。
それは回復魔法の中でも、体を癒し、疲れ失った体力を取り戻すもの。このメイドが得意とする魔法だ。
「ありがと、イサドラ……」
「ご主人様のメイドとして当然の事をしたまでです」
少年が疲弊しながらも笑みを浮かべて礼を言うとイサドラと呼ばれたメイドは首を横に振る。
「回復したな。んじゃ、結界を消すぞ」
少年とメイドのやり取りを見ながら男が指を鳴らすと世界は一変する。瞬く間にそこは少年の知る部屋となり、男の持つ銀色の剣は光の粒子となって消えた。
「しかし良かったのかマスター、登校する時間までもう二時間くらいしかない。 ほぼ徹夜で稽古する必要があったのか?」
男が問うと少年は立ち上り持っていた本を近くの机に置く。
「いいよ、そのつもりで頼んだんだから。イサドラの回復魔法で眠気も無いし……」
「そのつもりで、か……ああ確か今日は」
少年の言葉にピンときた男に少年は頷く。
「さあ使い魔、疑問が解消したなら早く消えなさい。今からご主人様は登校の支度をしなければなりません」
「はいはい分かりましたよ。じゃあなマスター、今日は、まあ頑張って乗り気ってくれ」
そう言って男は逃げるように剣と同じように姿を消した。
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