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少年はボロボロになった運動着を脱ぎ、イサドラから制服を受け取って着替える。そして半裸の少年が着替えるのをじっと見つめるイサドラ。
メイドの視線に気づきながらも最早慣れたとばかりに着替え終わった少年は机から鞄を持って自室を出る。
「おはようナナリー」
「………………」
自室を出て直ぐ、ばったりと出くわした少女に声をかけるが少女は無視というより、少年を存在しないものというように通り過ぎて行った。
背後でメイドの怒気を感じとりながら少女が行った方向とは逆の方向へと進む。
「あの、ご主人様……」
「相手は姫だからね、一応挨拶しとかないとさ」
「それは……しかしご主人様っ」
「イサドラ」
怒った訳ではない。普通に、いつも通りに、平静に言った少年の言葉はメイドの意思を容易く断ち切った。
「……申し訳ありません」
「挨拶は体裁を気にしてやってるだけ。本気で元の関係に戻そうとか、そんなの僕が考えてると思うかい?」
「……………」
イサドラはそれきり無言で少年の後を付いて行く。
赤絨毯が敷かれた廊下を進み、階段を下り、一階から外に出て少年は一度振り返り出てきた建物を見る。
一言でいうなら『豪邸』。初めて見た時はこれが学園の寮だとは思わなかったが、れっきとした学生寮だ。
ここはトゥリアント王国―――巨大な防護結界に覆われ、世界史上安全な国とまで言われる大国。その国の、最も多くの優秀な騎士を輩出する『レイズナー学園』。
生徒の殆どが大きな富、そして王族などの権力と近い地位を持った、貴族や大地主などの、いわゆる上流階級者である。
そこに通う少年、ライネル=クリハロス。
彼は、普通ならこの学園に入学する事は出来ない。貴族ではないからだ。しかしこの学園はライネルの入学を許した……というか入学させた。
なぜ入学させたのか、理由は分からぬまま、ライネルは騎士になるべく学園に通っている。
「ご主人様、どうかなさいました?」
「なんでもない、行こう。道具は持った?」
「はい」
「ならいい」
ふと浮かんだ疑問は後回しにし、ライネルは寮を離れ、レイズナー学園の校舎へと向かった。
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