見習い騎士と決闘と模擬戦

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次々と現れる漆黒の針を躱しながら、ライネルはアルキアの右腕に刻まれた模様を注視していた。 『目覚めよ、我が刻印(インストール)』という声もとい詠唱により魔法を使う事が出来る―――通称『刻印』。 その源流は物に魔法陣を刻み、魔力を流すことで一つの魔法の効果が発動する『刻印魔法』。それを長い年月をかけて改良されたもの。その家系において得意な魔法全てが記録されている。 たとえば火属性の魔法が得意なAがいたとする。『刻印』はそのAが生涯をかけて向上させた、火属性魔法の技術すらも記録する。 そして『刻印』は遺伝し子へと引き継がれるのだが、その子供の火属性魔法の技術は先代―――すなわち親となったAの技術と同レベルとなるのだ。 子供が第一次成長期を迎える頃には記録された魔法の情報の大半は『刻印』を通じて理解し、第二次成長期までに全て理解出来るようになる。その後は更に魔法をより良くしたり、記録にない新たな魔法を会得するなど個人の自由だ。 (……『刻印』が生まれたのはおよそ百年前。改良や調整・実験などで安全に遺伝し引き継がれるようになったのは、生まれてからちょうど五十年後。カルネデス家は『刻印』の技術を直ぐに取り入れた。つまりアルキアは……) カルネデス家が『刻印』技術を取り入れてから歩んできた五十年の歴史そのもの、という事だ。 カルネデス家は魔法の研究に熱心な事で有名であり、アルキアの亡き祖父は魔法学の権威。現当主である父親も優秀な研究者として世間で知らぬ者はいない。 祖父や父親が研究し、洗練し、改良し、改善を重ねに重ねた魔法の数々(研究成果)……代々受け継がれてきた五十年の歴史、それがアルキアの、現代の人間の武器。 (魔法が発動されると『刻印』が魔力に反応し輝く。発動するタイミングはそれを見逃さなければ簡単に躱せる……あとは、腕を切り落とさないようあの『刻印』を傷つける事が出来れば、勝てる) 『刻印』は魔法陣の塊だ、怪我をして少しでも綻びがあれば魔法は一切発動する事が出来なくなる。幸い傷ついても『刻印』のある部位は魔力が多く通っている影響で治癒力が高い。 軽い切り傷くらいなら一日もせず治り魔法も使えるようになる。 (まあ、普通はやらないよね。それは人が積み重ねてきたものを壊す行為なんだし……) と胸中で思いながら、ライネルはどうやって『刻印』を傷つけるか考えていた。
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