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「そうなんだ、大変だなあ。犯人、捕まるといいけどなあ。ヒナタ、ここんところ、全然ついてないよな。レインポンチョ盗まれて、店のケータイ落として、次は交通事故か。たまんないよな。……なんか、楽しい話、やってないかな」
観月がリモコンでテレビをつけると、壁かけのモニターから、昼のニュースが流れだした。
「うわ、また殺人事件か。浜砂がイメージダウンするから、よそでやってほしいよ」
その瞬間、ヒナタの目が、画面に釘付けになった。
《警察では、死亡当日に浜砂市の彼女の自宅を訪ねた波多野乗治さん四十歳を、参考人として取り調べています。筆草環さんは、久能れもんの名前で、小説家として活躍しており、波多野さんの作品が自作に酷似しているとして、二人の間には深刻なトラブルがあったことが明らかになっています……》
「行馬、これ」
「あの人か」
「そうだよ! こんな、殺されちゃうなんて」
観月は首をかしげた。
「ヒナタの知り合いなのかい?」
「観月は知らない? 久能れもんの『追跡』って小説、去年、ドラマ化されたろ。人気が出たから、四月から連続ドラマになるんだよ。ほら、《犯人なんて誰だっていい、一番大切なことは》って、大きくテロップが出る、アレ」
「へえ、あれを書いた人なのか。浜砂に住んでたんだ、勉強不足だったなあ。でも、別に作者が死んだって、ドラマはやれるだろ」
行馬は眉を寄せたまま、
「それはどうだろうな。この事件の展開にもよるんじゃないか。話題になるか、反対に不謹慎だってなるか」
「でも、犯人はもうわかってるみたいじゃないか」
ヒナタは首をふった。
「僕は、この波多野って盗作男は、犯人じゃないと思う」
「何か知ってんの?」
「知らない。でも、たぶん違うよ」
「なんで断言できるのさ」
「観月って、ほんとに久能れもん、読んでないんだね。第一話にあるんだよ、あの台詞。盗作犯人っていうのはさ……」
行馬が急に立ち上がった。
「ヒナタ。その骨折、本当に事故か」
「え」
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