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グラウンドで部活の仲間とサッカーに励んでいる彼を見ると、少しだけ心が踊る。
「まあ、せいぜい捕まらない程度にしときなよ。あんたのそれは、盗撮よ」
と、盗撮……。
言われてみればそうかもしれない。
「可愛い動物とか鳥とか、そういうのを撮ってる気分でした」
「えっ、まじで言ってんの? まあ、那智が自分から人を撮るのは珍しいからね」
「いつの間にか撮らなくなってしまったんですよね。でも、雷凰君を見たら、久し振りに撮りたいって思ってしまい、どうにもとまらないです」
今までは風景や動物ばかりで撮っていた。夕焼けに染まる街、雨の雫を纏った紫陽花、夏の青い空……自分が綺麗だと感じた自然が作り出すその一瞬をカメラで撮るのが好きだった。
でも、いつからだろうか。人を撮りたいと思うことが無くなったのは。友人達が笑った顔や楽しそうにはしゃぐ子供達、素敵だなとは感じるのに、何故かカメラを向ける気にはならなかった。
自分でも不思議だ。
こんなに誰かを撮りたいと思ってしまうのは。
「もしや、恋?」
「それは……ないと思います。それに、彼はつい最近まで中学生だったんですよ。私はもう受験が控えてる身ですし、そういう対象に考えたことすらないです」
りっちゃんは「恋って考えてするもんじゃないと思うけど?」と呆れて言った後、「まあ、那智は相変わらずのカメラヲタクってことね」と苦笑した。
「最高の誉め言葉、ありがとうございます」
「いや、誉めてないわよ」
「あっ……、雷凰君がシュート決めたっぽい! シャッターチャンスがっ……!」
りっちゃんには申し訳無いけど、話の途中でカメラを手に取りグラウンドにカメラを向ける。
シュートの瞬間は撮れなかったけど、その後、部員と戯れる彼を撮りたいっ!
……って、あれ?
一瞬だが、カメラ越しで彼と目が合ったような気がした。
気のせい?
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