第十二作(植物図鑑)

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第七話 <さくら>  「あの、香月さん……」  「「何?」」  あ、お二人同時に返事されました。そうでしたどちらも香月さんでした。  「えっと……あの……ゆ、ゆうとさ、ん……」  「え、何だか新鮮でいいな……どうしたの?」  「これって……あのスチール写真の撮影です…よね?」  「そうだね」  「じゃあ、その……いつものような事はありませんよ……ね?」  「まあ任せておいて。一番可愛いを顔させてあげる」  ああ、嫌な予感しかしてきません。いきなりオーラがピンク色です。  「ユズ、お前は写さないからな。自分の撮った写真に自分と同じ顔があるとか……気持ち悪くて無理だ」  「は?俺だってオミに見られるの嫌だよ。それに写りたくもない。けれど他の奴に向かって将生にあんな顔はさせたくないから仕方ないだけだ」  兄弟喧嘩は回避、お二人の利害は一致したようですね。良かったです。ところで、今更ですが、カレンダーの写真を撮るという話を一体どの時点で僕は了承したのでしょうか。  考え事をしていたら、香月さんに耳を軽く噛まれました。耳の軟骨をつつと舌先で撫でられています。  「ふ……んっ」  声が出た時に少し品のない口笛が聞こえましたが、あれはオミさんでしょうね。他に誰もいませんし。  「そろそろ、あっちへ移動しようか」  真っ赤な布の海の上に、造花や発泡スチロールの雪に埋もれるように寝かされました。僕はまるでクリスマスプレゼントのようですね。    香月さんは優しく僕の耳元で囁きながら、触れるような口づけをあちらこちらに落としてはすっと離れていきます。  もっと側に来て欲しくて、涙が出そうです。  遠くでシャッター音が聞こえるような気もしますが、もうどうでも良いです。  「ん……ああ、んっ」  突然、腰のところを強く吸われて思わず声が出ました。  「ユズっ!痕つけんな!」  オミさんの声で現実に引き戻されました。そうでしたここはスタジオでした。  「ああ、悪い。つい、でも良い顔になったでしょう。後は任せるよ。桜の花びらの一つくらい勘弁してよ」  意地悪い笑顔の香月さん。わざとですね。ご兄弟揃ってそう言うところそっくりです。  香月さん二人に見つめられて、何だか甘い水の中を漂っているような素敵な気分です。 【植物図鑑 おしまい】
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