第1章

39/39
234人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
 今日は一時間早く店を閉めて、買い物に出る予定だ。夕飯に長尾くんが、うちで広島風のお好み焼きを作ってくれるから。広島出身の長尾くんには、大阪風のお好み焼きは「同じ名前の別物」だって言う。広島風は僕も和生さんも食べたことがない。それを知るとものすごく張り切って、日にちを決めた。  おなかいっぱい食べたら、一緒に自転車に乗って、長尾くんの部屋に帰る。  いつもみたいに。  「じゃあ黒木くん、あとで」  「はい、行ってらっしゃい」  口笛を吹いて出て行く姿を見て、カウンターのお客さんが言った。   「あの子、相変わらず毎日来るの?」  「もう通ってくれて、長いですね」  「君たち、ほんと仲良しだよね」  「そうですね。年も近いし」  目の端で窓の外を追う。日向の中でマウンテンバイクにまたがって、長尾くんが片手を上げる。その手の中で、お揃いの銀色がちらっと光った。  「いい、ともだちです」  いちばん大事な。  大好きな。    終   「ふたりはともだち」 作品概要  舞台は現代。黒木侑吾(受)は渋谷でコーヒーショップを営む二十六歳のゲイ。フランス育ちの日仏ハーフだ。その美貌から男女問わず好意を寄せられる一方、「恋をすると面倒な性格に豹変し、必ず振られる」というトラウマを抱える。決定打は、三年前に離婚で終わった仏での同性婚。その後「もう二度と誰も好きにならない」と決意し、全てを捨てて日本へ移住。傷は癒えないまま今に至る。  近所に住む二十四歳の会社員・長尾総司(攻)は侑吾のセフレ。侑吾を「運命の人」と信じ、恋人付き合いを求める。侑吾も総司を大事な友人と思っているものの、トラウマから頑として恋人関係を受け入れない。付き合わなければずっと仲良しでいられるーー侑吾の思い込みから「キスもセックスもする友人」のバランスを保ち、一年が経過。総司の引越しを機に、その関係に変化が訪れる。  思い込みとトラウマを巡る恋物語を、コーヒーショップの美味しいものと絡めて描く。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!