①始まり

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 私の名前は、東山 桜(とうやま さくら)。元々身体は弱かったけれど、幼き頃に交通事故に遭ってしまってから、唐突なめまいや失神が襲ってくる身体になってしまい、普通の生活が遅れず、病院の中だけが私の生きる空間となった。ほぼほぼ、病室のベッドにいる事が多く、窓から見える公園の景色を見たり、本を読んだり、絵を描いたり、テレビを見たりと、病室から出る事はほとんどなかった。やはり、急に倒れて人様に迷惑を掛けたくないという想いが一番大きかった。  ある春の日。外から見える公園に一本だけ大きな桜が咲いていて、いつも綺麗だなぁっと眺めていた。そして、その周辺には、同い年くらいの男女が楽しくお喋りをしているように見える。その楽しそうな姿を日々見ていると、いつか私もその輪の中に入りたいと思うようになった。   そして、辺りは真っ暗で、夜桜が綺麗に照らされている満月の夜。私は眠りに就いていたが、その眠りの中で、夢を見ていた。いや、誰かの声を聞いた。 「桜の名を持つ少女よ。ワシの声が聞こえるか? ワシは、病院の隣で咲いている大きな桜、枝垂桜じゃ。ワシの寿命が近付いておる。その前に、ワシの話し相手になって貰えないだろうか? なってくれるなら、そなたに元気を与えてやろう。春の間だけじゃがな……」 私はその問いにすぐ答える事ができなかった。しかし、その枝垂桜の声は、毎晩のように夢の中で聞く事になった。ある意味、今考えてみれば脅迫である。それでも、私は悪い気はしなかった。夢の中とは言え、私にとっても良い話し相手になっていたからだ。しかし、桜が散ると、枝垂桜の声は聞こえなくなった。  そして、その次の春の季節。再び、夢の中で、枝垂桜の声が聞こえた時、私は、枝垂桜の話し相手になる事を承諾した。一年ぶりに再会した友人のように、私の心は再会を待ち望んでいたのであった。
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